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ProductZine Day&オンラインセミナーは、プロダクト開発にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「ProductZine(プロダクトジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々のプロダクト開発のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

ProductZine Dayの第3回。オフラインとしては初開催です。

ProductZine Day 2024 Summer

ProductZine Day 2024 Summer

エムスリー山崎聡氏×レッドジャーニー市谷聡啓氏 対談

優れたプロダクトは「学び」から生まれる――“アジャイルもどき”で失敗しないために組織に必要なマインドセットとは?

エムスリー山崎聡氏×レッドジャーニー市谷聡啓氏 対談:前編


 エンジニアとして異なる経歴を辿ったものの、ものづくりにおいて同じような考えを持つに至ったというエムスリー山崎聡氏とレッドジャーニー市谷聡啓氏のお二人に、「プロダクト開発で起こりがちな問題の本質と、その解決策」というテーマで語っていただきました。前後編にわたってお届けします。前編は、なぜプロダクトを作るのか、なぜアジャイルがアジャイルもどきになってしまいがちなのかについて。(編集部)

はじめに

 近年、ネットベンチャーのみならず、多くの企業がアジャイルな手法を取り入れた「プロダクト思考」での製品開発、サービス開発に取り組んでいる。不確実性が高く、変化のスピードが加速し続ける市場で、より高い競争力を持ったプロダクトを生みだすための手段として期待されているためだ。その一方で、そうした新しい形でのものづくりになかなか取りかかれない、取りかかっていたとしても思ったような成果を生み出せないといった声も聞く。企業にとって競争力となる、高い価値を生みだすプロダクトづくりが阻害されたり、成果を挙げられなかったりする理由は何か。また、そうした問題を効果的に改善する方法はあるのか。

 今回、エムスリーで執行役員 VPoE兼プロダクトマネージャーを務める山崎聡氏と、レッドジャーニー代表として企業のDXやプロダクト開発支援を手がけ、アジャイルによるプロダクト開発の方法論に明るい市谷聡啓氏(ProductZineチーフキュレーター)の両名が「プロダクト開発で起こりがちな問題の本質と、その解決策」について語った(聞き手/進行:編集部 斉木)。

Zoomでのオンライン対談の様子(左:エムスリー 山崎聡氏、右:レッドジャーニー 市谷聡啓氏)
Zoomでのオンライン対談の様子(左:エムスリー 山崎聡氏、右:レッドジャーニー 市谷聡啓氏)

別ルートをたどった2人のエンジニアが行き着いた「アジャイル」という作り方

市谷:今回は、プロダクト開発の現場で起こりがちな問題や、その解決に向けた方法論について、エムスリーの山崎さんとお話しをさせていただきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。はじめに、山崎さんがこれまで、どのようにプロダクト開発に関わってこられたのかをお聞かせいただけますか。

山崎:現在、医療情報関連サービスを提供しているエムスリーで、VPoE(Vice President of Engineering)兼PM(Product Manager)兼CDO(Chief Design Officer)を務めています。今は42歳で、キャリアのバックグラウンドはエンジニアです。

 コンピュータに触れた時期が早く、8歳くらいからプログラミングを始め、小学5年生のころにはマシン語をバリバリ書いていました。その後、高校時代に、パソコン通信やインターネットにハマり、大学に入学するころには、プログラミング歴も10年を数えるくらいになっていました。

 そんな感じだったので、大学でも授業だけでは満足出来ず、入学早々にアルバイトを初め、秋葉原のPCショップでインターネット黎明期にECサイトの立ち上げに関わるなど、事業会社でのインターネット関連新規事業の立ち上げに興味を持ちました。それが1997年くらいのことです。

 学校のほうは、教授からのスカウトもあり、大学院の博士過程まで進んだのですが、結局、自分はベンチャーの方が向いていると考え博士の2年で中退しました。その後、ベンチャー企業、フリーランスを経て、当時東証マザーズに上場していたメビックスに入社し、エムスリーに買収されて今に至ります。

 振り返って見ると、学生のころから一貫して、事業会社でのインターネット関連新規事業を少人数で立ち上げるたり、同じく少人数で既存のサービスやプロダクトにテコ入れすることを仕事にしてきました。

市谷:なるほど。私の場合は、まずSIerで「大人数で一つのものを作る」という開発の現場に入り、そのキャリアを究めていく中で、アジャイルというやり方にたどりついたのですが、山崎さんの場合は、アジャイル的なやり方でものを作るというのが当たり前の環境に、はじめから身を置いておられたのですね。

山崎:そうですね。もちろん、大学院ではソフトウェアエンジニアリングも学んでいたので、SIer的な作り方があるというのは、当時から理解していました。ただ、自分の場合は、事業会社で少人数、インターネットネイティブ、かつアジャイルでなければ生き残れないものづくりの世界が目の前にあったので、その中でのやり方、作り方に常に関心を持ち続けてきたという感じですね。

――現在の山崎さんは、VPoEとプロダクトマネージャーとしての役割を担っておられますが、いわゆるエンジニアの立場から「プロダクト思考」でのものづくりを意識されたのには、どういうきっかけがあったのでしょうか。

山崎:簡単に言ってしまうと、社会人になる頃にはプログラミングそのものに「少し飽きた」というのがあります。ベンチャーやフリーランスで働き初めたころには、プログラマー歴も15年以上になっていて、仕様さえ決まっていれば、一通り何でも作れるくらいのスキルは身についていました。

 ただ、事業会社で仕事をする上で、ビジネスで勝つためには、「どう作るのか」と同等以上に「何を作るのか」が重要ということを痛感していました。何を作るかが正しく定まってさえいれば、それをエンジニアリングで正しく実現していけばいいわけです。逆に「作るもの」が間違っていれば、いくら技術を駆使しても、そこに価値は生まれません。

 社会人になってからの15年は、何を作るのか決めることと、それをエンジニアとして実装することの両方をやってきました。そのバックグラウンドがあって、現在のエムスリーではVPoE、CDO、QAの最高責任者、プロダクトマネージャーを兼任しているという状況ですね。エムスリーでは、イノベーティブなプロダクトを生み出すことが組織のために必要という認識が浸透していて、そのために、新しいやり方を積極的に取り入れています。

市谷:山崎さんと私は、エンジニアとしてたどってきた道筋が大きく違いますが、「何を作るのかが重要」という認識には強く共感します。やり方が正しかったとしても、間違ったものを作っている限りは、どこにもたどり着けない。ユーザーや顧客にとって役に立つもの、意味があるものをつくる、「正しいものを正しくつくる」という言葉を長らく背負っています。こうした言葉を宿すようになったのは、これまでのキャリアが影響しています。

 かつては自分が仕事として作っているものが、誰にどう使われているのかが見えてこないまま、とにかく目の前のソフトウェアを完成させようとすることに、常日頃疑問を感じていました。若い頃はよくも分からず、商流上のピラミッド構造を上へ上へと登っていけば、何か見えてくるのではないかと模索し続けていた頃もあります。

 結局、旧来のシステム作りの枠組みの中で、ものづくりに関わっても「何を作るべきなのか」の見立てを十分に持てず、その状態を変えていく方法についても決定打がないという結論に至ります。結果として、自分で会社を立ち上げて、事業の責任を背負い、方法自体の仮説を立て、取り組んできた感じです。そうした位置に立つことでようやく見えてくるものがあった。自分の立つ位置を意識的に変えなければ見えてこないものがあるというのは、プロダクト作りでも大事な観点ですね。

山崎:「何をつくるべきかが重要」という問題意識と、その手法としての「アジャイル」に、私と市谷さんがまったく別のルートからたどりついたというのはとても面白いですね。

 どんな形でソフトウェア開発に携わっていたとしても、現在の状況でものづくりの本質を指向すると、モダンなアジャイルに到達するのではないかと思います。恐らく、現在シリコンバレーでソフトウェアを作っている人たちの多くも、そうした過程をたどってきているのではないでしょうか。

山崎 聡(やまざき・さとし)氏

 エムスリー 執行役員 Vice President of Engineering / プロダクトマネージャー。

 大学院博士課程中退後、ベンチャー企業、フリーランスを経て、2006年に臨床研究を手がけるメビックスに入社。2009年、メビックスのエムスリーグループに入り、以降、エムスリーグループ内で主にプロダクトマネジメントを担当する。2012年にグループ会社であるシィ・エム・エス取締役に就任。2015年にデジカルを共同創業。2017年にVPoEとなり、2018年からエムスリーの執行役員。現在はプロダクトマネージャーとして自ら新規プロダクトに関わりつつ、執行役員 VPoEとして、エムスリーグループを横断してプロダクト思考の開発プロセスおよび組織化を推進。2020年4月からはエンジニアリンググループに加えて、ネイティブアプリ企画部門のマルチデバイスプラットフォームグループと全プロダクトのデザインを推進するデザイングループも統括。

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なぜプロダクトを作るのか――エンジニアが持つべき誇りとは

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この記事の著者

斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)

株式会社翔泳社 ProductZine編集長。 1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以来担当し、2011年4月から2020年5月までCodeZine編集長を務めた。教育関係メディアの「EdTechZine(エドテック...

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柴田 克己(シバタ カツミ)

フリーのライター・編集者。1995年に「PC WEEK日本版」の編集記者としてIT業界入り。以後、インターネット情報誌、ゲーム誌、ビジネス誌、ZDNet Japan、CNET Japanといったウェブメディアなどの製作に携わり、現在に至る。 現在、プログラミングは趣味レベルでたしなむ。最近書いてい...

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