NCDCにおける具体的な取り組み例
ここで、武方氏が現在勤務しているNCDCで実際に行われている、チーム内のコミュニケーションを「仕組み化」するための施策について紹介された。この取り組みが始まった当初、同社のメンバーは約30名で、同時に5~10ほどのプロジェクトが並行して動いている状況だったという。同社では毎週月曜日に「朝礼」と呼ばれる全社ミーティングを通じて、さまざまな情報共有を行っていた。
この朝礼では毎回、Googleフォームを用いたシンプルなアンケートを実施した。具体的な進め方としては、
- 自分が抱えるプロジェクトに対する不安度を5段階評価で回答してもらう
- 朝礼中にリアルタイムで入力してもらい、集計された結果をみんなで確認する
- スコアが下がっている人や気になるコメントをしていた人に対して、直接どんなことが起きているのかを尋ねる
- その場で対応が必要かどうかを判断し、アクションを設定して改善につなげる
といった流れになる。
「アンケートを送っておいて後で回答してもらう方法も考えたが、それだと回答率を高めるのが難しいと判断した。また、結果に対する詳細なヒアリングが必要なため、朝礼の場でリアルタイムに回答してもらう形式とした。こうした取り組みが個別のプロジェクトで閉じてしまわないよう全社朝礼の場で行い、会社全体で取りこぼしが起こらないように考慮した」(武方氏)
このリアルタイムアンケートには、良い点と問題点の双方があった。
良かった点としては、特定のプロジェクトでリリースへの不安を早めに発見し、スコープやスケジュールなどを調整する場を設けられるようになったという。また自分だけではなく、他のメンバーがどんな不安を抱えているかを可視化できたことで、その解消に向けたアクションを取りやすくなった。不安を共有することがプロジェクトの改善につながることを全社共通の認識として得られたことも大きかったとする。
一方の問題点としては、全社朝礼の場であることが心理的安全性のハードルを上げてしまい、自分の不安を話すことに強いストレスを感じるメンバーも少なからずいたという。
「ファシリテーターは、ヒアリングを行う際に『どうしてそういう不安があるのか』と聞いてしまいがち。こういう聞き方をすると、その質問自体が圧力になる。そもそも、漠然とした不安に対する理由を説明すること自体が難しい」(武方氏)
また「社員の増加」も、この施策を難しくする一因となった。社員が増え、朝礼の規模が大きくなると、施策の実施に時間が掛かるようになる。その結果、決められた時間の中で「不安」の原因を深ぼりすることができなくなり、対応も表面的なものになりがちだったという。
問題点を改善し「組織文化」と「システム」の両輪でリスクを可視化
こうした状況を受けて、NCDCでは施策の改善を図った。
まず心理的なハードルを下げるために、不安について「全社朝礼で話す」形式をやめた。アンケート結果は全体では確認せず、プロジェクトごとにマネージャーがチェックし、必要に応じてメンバーに確認して状況をまとめ、その内容をしかるべきメンバーでのみ共有するようにした。
「回答率の低下が懸念されたが、これまでの取り組みですでに社員にはアンケートに回答する習慣ができていた。そのため、リアルタイムでの確認をやめても大きな回答率の低下は見られなかった」(武方氏)
また「問いかけの圧力」を低減するための取り組みとして、この施策の「目的」を共有することを徹底した。アンケートやそこから派生する質問は「プロジェクトのリスクを知って改善に生かす」ことが目的であり、ネガティブなコメントをしたところで、個人の批判や人事評価につながるものではないということを改めて説明するようにした。また問いかけるマネージャー側も「なぜ?」という形で「理由」を聞き出すのではなく、実際にどのような「事実」があったのかを聞くよう心がけたという。
さらに「規模の拡大で施策に時間がかかる」という問題については、アンケートを全社ではなくプロジェクトごとに実施して取りまとめるという形式に変えることで改善が図られた。
これらの改善が行われた後の流れは、
- プロジェクトごとにアンケートを採る。アンケートフォームが毎週メンバーに送信され、メンバーは各項目にスコアを付けて回答する
- 得られた回答を元に、チーム内でコミュニケーションを取る。主にマネージャーが中身を確認し、メンバーと会話をしてどのようなリスクがあるかを把握していく
- マネージャーはレポートを作成し、状況をステークホルダーへ共有する(これは、マネージャー自身にとってもプロジェクトの状況を整理するきっかけになる)
- ツールに、複数のプロジェクトを一覧して状況を確認できる機能を追加する(不安を共有しやすい社内文化を醸成することを意図)
となっており、現在も実施と改善が続けられている。
「プロダクト開発には多くのリスクが潜んでいる。そして、それらのリスクはメンバーが『不安』という形で早期に察知していることが多い。その不安を共有できれば、リスクに対して早期に対応でき、具体的なトラブルになるケースを減らしていける。NCDCでは、そうしたリスクマネジメントに向けて『不安を共有する文化の醸成』と、それを支える『システム』の両輪で対応していこうとしている」(武方氏)
なお同社では、自ら実践している『メンバーが感じている不安の可視化』をサポートするシステムを「PJ Insight」というプロダクトとして公開している。武方氏は「このツールが、皆さんのプロダクト開発を円滑にする一助になればと考えている。ぜひ利用して感想を聞かせてほしい」と述べてセッションを締めくくった。
マネージャー層から見えにくいPJメンバーの本音を可視化するツール
PJ Insightは従来型のプロジェクト管理手法では把握が難しかった「プロジェクトメンバーの本音や不安」を定期的に収集して、PMやPMOが現場の状況を把握しやすいように可視化します。PJに潜むリスクの早期察知に課題を感じられている方は、ぜひPJ Insight(公式サイト)をお試し下さい。無料トライアルも実施中です。