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ProductZine Day&オンラインセミナーは、プロダクト開発にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「ProductZine(プロダクトジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々のプロダクト開発のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

ProductZine Dayの第3回。オフラインとしては初開催です。

ProductZine Day 2024 Summer

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「pmconf 2024の落選セッションお披露目会」レポート

「経営と向き合う前に、自分の価値を示そう」──ユニファ山口隆広氏が語る、プロダクトマネージャーの成長戦略

「pmconf 2024の落選セッションお披露目会」レポート

 プロダクトマネージャーは、どうすれば組織内で影響力を発揮できるのか。そのヒントが、2025年1月19日に開催された「pmconf 2024の落選セッションお披露目会」にあった。本イベントでは、プロダクトマネージャーカンファレンス(pmconf)で惜しくも選考から漏れたセッションが披露され、ユニファ株式会社CPOの山口隆広氏は10年前の失敗経験をもとに、プロダクトマネージャーが組織で価値を示すための考え方を語った。そのメッセージは、個人の願望と組織の期待が必ずしも一致しない現実を前に、プロダクトマネージャーがいかに価値を示すべきかを探るものであった。

講演資料

経営と向き合うプロダクトマネージャーとしての苦い過去

 ユニファ株式会社は、保育・育児関連の社会課題解決をめざすスタートアップで「家族の幸せを生み出すあたらしい社会インフラを世界中で創り出す」をパーパス(存在意義)に、IoTや生成AIなどの最新のテクノロジーを活用したサービス「ルクミー」を開発・提供している。「保育の質を上げる」をキーワードに、保育関係者のパートナーとしてICTソリューションを提供する企業。主力サービス「ルクミー」は、「もっと見たい。もっと見てほしい」という保育現場の願いを実現する保育施設向け総合ICTサービスとして、ICT・IoTを活用した業務効率化と、ドキュメンテーションなどによる振り返り支援を通じて、保育者がこどもともっと向き合える環境づくりを支援している。

 「ルクミー」の提供を通じて、保育者のさまざまな業務負担を軽減することで、保育者がこどもたちと向き合う時間的余裕を生み出すことをめざしており、これらのサービスを通じて、テクノロジーの力で保育現場の課題解決に取り組んでいる。

 山口氏は、ユニファ株式会社の執行役員CPOとしてプロダクトデベロップメント本部を率いるほか、AI開発推進部の部長も兼務し、最新技術を活用した保育現場のDXを推進している。5歳のこどもを持つ父親であり、HCD-Net認定の人間中心設計専門家としても知られる。これまで企画職としてのキャリアを着実に積み重ねてきた人物だ。

ユニファ株式会社 執行役員CPO 山口隆広(やまぐち・たかひろ)氏
ユニファ株式会社 執行役員CPO 山口隆広(やまぐち・たかひろ)氏

 講演の冒頭で山口氏は、「現場のプロダクトマネージャーとして、経営と向き合うプロダクトマネージャーになりたいと考える人」の課題を示した。ここで言う「経営と向き合う」とは、経営層に意見を述べたり、提案を聞いてもらったりして、それが採用されるような状態を指す。プロダクトマネージャーが経営と対話したいと考えるのは、プロダクトに関する意思決定が世の中の知見とズレている、プロダクトマネジメントの重要性が十分に認識されていないと感じるからだ。さらに、経営との距離を縮め、自分の提案を通じてプロダクトへの理解と投資を促したいという思いもある。こうした課題意識が、「経営を説得したい」という考えにつながる。

プロダクトマネージャーはプロダクト理解が不足した経営陣を説得したいと考えがち
プロダクトマネージャーはプロダクト理解が不足した経営陣を説得したいと考えがち

 「プロダクトマネジメントを理解していない」「もっと私の話を聞くべきだ」──山口氏も10年前、エンターテインメント企業でソーシャルゲームの開発チームの課長として、このような思いを抱いていた。当時のプロジェクトは好評で業績も順調。「マネージャーとしての自信に満ちあふれ、天狗になっていた」と山口氏は振り返る。

 表面的には順調に見えた一方で、当時の山口氏のマネジメントには問題があった。メンバーの要望に応えることが良いマネジメントだと信じ込み、御用聞きのように奔走。メンバーの話に耳を傾け、困りごとを解決する日々を送り、カレンダーはミーティングで埋め尽くされていた。その状況に満足し、自分は完璧なマネージャーだと思い込んでいた。しかし実際のところ、引き継いだプロダクトがもともと優れていただけであり、事業の成長に伴って組織を拡大する必要が生じ、ただ昔から在籍していたという理由で課長に任命されたに過ぎなかった。

 転機は、経営陣から示された新規プロダクト戦略だった。複数の新規プロダクトを同時に立ち上げるという方針に、山口氏は強い違和感を覚える。開発現場の実情を理解していない判断だと考え、仲の良かったマネージャーとともに、数十ページにもわたる資料を作成した。人員配置や組織体制まで含めた詳細な提案だった。

開発チームの視点で経営陣に提案したが、うまくいかなかった
開発チームの視点で経営陣に提案したが、うまくいかなかった

 この資料は同僚の部長を通じて経営陣に届けられた。山口氏は、これで自分の主張が通るはずだと確信していた。しかし結果は想像以上に厳しいものだった。

 「『この本部のマネジメントは君には任せられない、だから他の本部の人に両方見てもらうことにする』という形で、自分を含めた関係者はマネジメントから外され、異動となりました。その経験は苦い思い出として残っています」(山口氏)

 振り返ると、当時の山口氏の行動には問題があった。提出した資料は開発チームの視点に偏り、事業全体を見据えた提案には至っておらず、「私の話を聞くべきだ」という独りよがりな姿勢に終始していた。経営陣からすれば、現場で解決できる話に時間を割く必要はないと考えるのも当然だった。

 この経験を通じて、山口氏はプロダクトマネジメントの正しさを主張するだけでは経営を動かせないことを学んだ。開発現場の実情を伝えれば状況は改善するという考えは幻想であり、経営が求めているのは細かなプロセスではなく、事業としての成果であることに気づいたのだ。経営が必要とするのは、否定的な意見ではなく、課題を解決するための具体的なプランや代替案であり、この経験が現在の山口氏にとって「経営と向き合うプロダクトマネージャー」としての考え方の軸となった。

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なぜ「開発の人は事業のことが分かってない」となるのか

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務やWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR関連の事例取材に加え、英語での海外スタートアップ取材などを手がける。独自開発のAI文字起こし・...

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