新機能の素早い投入と技術的負債の解消を両立させるために
さらなる成長を目指す「10から100へ」のフェーズでは、前フェーズで発生した課題を解消するとともに、さらなる事業成長を目指して「トレンドに合わせたプロダクトのアップデート」「負債の解消とキャパシティの強化」「新規事業展開を見据えたアーキテクチャ変更」というサービス要件が新たに掲げられた。
ここでは、「最低取引金額の引き下げ」や「新NISAへの対応」といった市場トレンドへ対応するための新機能の開発が求められる一方で、蓄積した技術的負債への対応も同時に行わなくてはならなかった。そこで保科氏らのチームは、新機能の開発を止めることなく、かつ同時並行で技術的負債を解消するための大規模改善を行うべく、開発プロセスに新たにさまざまな工夫を凝らした。また新事業を立ち上げる際に俊敏に対応できるよう、プロダクト間で共通する機能の切り出しと共通化を進めるなどのアーキテクチャ変更も行った。
この「サービス規模を一気にスケールさせるフェーズ」においてエンジニアに求められることとして、保科氏は「ビジネスの将来像に対する高解像度なイメージ」を挙げる。
「技術的負債解消の必要性を事業側に説く際には、『事業の目指すべき姿を実現するためには、こういうシステムが必要ですよね』『現在と未来のあるべき姿とのギャップを埋めていかないと、次の事業の成長につながりませんよね』といったように、あくまでも事業の目線に立ったコミュニケーションを行うことが重要です」

事業成長に貢献できるエンジニアであるために心掛けるべきこと
これら一連の事業成長フェーズと、それぞれにおいてエンジニアとして心掛けてきたことや学んだことを振り返りながら、保科氏は次のように述べる。
「振り返ってみると、事業成長の各フェーズにおいて、それぞれエンジニアとして異なる判断を下してきました。最初は『とりあえず作れ!』という判断でしたが、後のフェーズになると『将来の価値』に着目した判断もするようになりました。逆に、もし全てのフェーズで画一的な判断を行っていたら、事業成長は成し遂げられなかったかもしれません」
このように保科氏は、事業成長に貢献できるエンジニアになるためには、事業の状態や目標、将来の展望に合わせて判断を柔軟かつ適切に変えられることが重要だという。そのために有効な思考法として、同氏は「事業の状態や目標、将来の展望を理解するためのコミュニケーションを重視する」「直感的に受け入れにくい意見にも耳を傾け、その正しさを確認してみる」「前提となるファクトを疑い、見えていない情報にも目を向ける」「スピード感を常に意識し、情報収集と判断のバランス感覚を鍛える」の4点を強調する。

最後に同氏は、「『やるぞ!』と決めたら迷わず前に進むことが一番大事」と強調した。
「何かをするときに『ああしておいた方が良かったかな?』と迷っていると、なかなかアウトプットが出ません。一度『やるぞ!』と決めたらとにかく前に進むことが大事です。ただし進む途中で間違いに気付いたときには、素早く軌道修正する切り替えの早さも大切です」