サービスのローンチに向けてエンジニアが心掛けるべきこと
次に、クローズドβからサービスの一般公開に向けたフェーズでは、「利用開始手続きを簡単にすること」「デザイン全体を良くすること」「売買のアルゴリズムを高度化すること」という3つのサービス要件が新たに掲げられた。
まず利用開始手続きの簡素化については、サービスのUIを見直してユーザー側の入力項目を減らすとともに、社内の業務プロセスの分析・改善も同時に行った。またデザイン面では継ぎはぎ的な改修ではなく、将来のサービス拡張にも耐えられるようフレームワークを一から新たに刷新した。
その結果、簡単に利用を始められるユーザーフレンドリーなサービスが実現した一方で、その代償としてUX改善を目的とした社内の業務オペレーションが増えてしまうという副作用が生じた。一例を挙げると、ユーザーが身分証明書の画像をアップロードできる機能を新たに実装したが、その内容のチェックを全て手作業で行っていたため業務負荷が一気に高まってしまったという。
なおこのフェーズにおいてエンジニアが心掛けるべきことについて、保科氏は「要件を満たすために手段をシステムだけに閉ざさないこと」「安易な解決策に飛びつかないこと」の2点を挙げるとともに、当時を次のように振り返る。
「UXを抜本的に改善するために業務プロセスを見直す際、エンジニアも業務プロセスにしっかりと入り込み、システムだけでなく業務プロセスについてもしっかり把握することがポイントでした。また安易な解決策に飛び付かず、将来にわたって継続できる改善策を考えることも大事ですが、その一方で10年後のような遠い未来のことを考えすぎると時間だけがかかってしまうので、その辺りのバランスをうまくとることも大事です」

開発スピードが最優先されるフェーズでは技術的負債の発生もやむなし
サービスのローンチ後、ユーザーを増やしていく成長期のフェーズでは、新たに「ユーザーが簡単に資産運用を開始・継続できる機能の構築」「少額で資産運用を開始できる仕組みの実現」「社内の業務負荷の軽減」という3つの要件が掲げられた。
これらの要件を満たすべく、同社の開発チームはリアルタイムでのオンライン入金機能や口座からの自動引き落としによる積立機能を新たに導入し、ユーザーの利便性を高めた。また「1000分の1株」から取引できるようシステム全体を変更することで、少額からの資産運用を可能にした。また前フェーズにおいて新たに持ち上がった「社内業務の負荷増大」という課題を解決すべく、業務のシステム化による自動化を進め、作業コストと人為的ミスの削減を実現した。
その一方で、スピードを最優先した開発の結果、「美しくない設計」や「システム全体の整合性を欠いた実装」が増えてしまい、システム的な負債も蓄積していってしまった。この点について、保科氏は「このフェーズにおいて技術的負債が発生することは、ある程度はやむを得ないことではないか」と見解を述べる。
「この『1から10に成長するフェーズ』は、事業成長にとって極めて重要な局面です。このタイミングで成長スピードが鈍化すると後発の競合サービスにあっという間に抜き去られるリスクがあるため、このフェーズではシステム的な負債にある程度目をつぶっていても前に進むマインドをエンジニアも持つべきだと思います」
