アンチパターンを踏まないための「社内実験」
なぜ、プロダクトへのAI活用を目指す上で、まず「社内」に目を向けるべきなのでしょうか。その理由は、AIプロジェクトの失敗における2つのアンチパターンを回避できる点にあります。
AIプロジェクトが失敗する大きな要因は、「関係者の理解不足」「いきなり大規模プロジェクトに着手する」、この2つに集約されると考えています。AIを「銀の弾丸」のように捉え、周囲の理解を得ないまま壮大なプロジェクトを始めてしまう。すると、関係者の期待値は青天井に上がり、初期要件はどんどん膨れ上がります。結果、開発期間は長期化し、サンクコストが積み上がって途中で引き返すこともできなくなり、プロジェクトは進むも地獄、退くも地獄という状況に陥ってしまうのです。
この負のループを断ち切るのが、「社内」というフィールドでのAI活用です。そのメリットは大きく2つあります。

メリット1.スコープを小さく、制約を緩く始められる
社内業務を対象にする場合、ユーザーは特定の部署の従業員に限られます。不特定多数の顧客を対象とするプロダクト開発とは異なり、ユースケースを限定し、スコープを小さく設計できます。
例えば、顧客に提供する機能であれば、あらゆる異常系の処理を網羅し、完璧なUI/UXを追求する必要があります。しかし、社内ツールであれば品質基準を現実的なレベル、例えば6割程度の完成度に設定しても、十分に業務効率化の恩恵を受けられるケースは少なくありません。完璧を目指さず、まずは「6割の完成度」で素早くリリースし、効果を検証できる。このスピード感が、社内活用の大きなメリットです。
メリット2.高速でPDCAを回し、成功の型を見つける
スコープが小さく、リリースまでのハードルが低いということは、それだけ高速にPDCAサイクルを回せることを意味します。
小さく始めることで、たとえ失敗してもダメージは最小限に抑えられます。失敗の原因を特定し、すぐに改善策を打つことができる。この小さなサイクルを短期間で何度も繰り返すことで知見が社内に蓄積されていきます。
このプロセスを通じて、私たちはAI活用の「成功の型」を見つけ出すことができます。そして、その中から「これは社内だけでなく、顧客に提供すればさらに大きな価値を生む」と確信が持てたものだけを、本格的なプロダクト開発の俎上に載せるのです。
これにより、本番環境への実装における不確実性を大幅に低減し、成功確率を格段に高めることができるのです。