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「プロダクト企画フェーズにおけるAI活用の将来像」座談会レポート

AI駆動企画の「現在地」【前編】──企画5フェーズはどう変わった? Honda・クリエーションラインが議論

「プロダクト企画フェーズにおけるAI活用の将来像」座談会レポート 前編


2. AI活用の「現在地」

 ここまで、AI登場以前のオーソドックスな企画フローを振り返った。では、ここ1~2年で、このプロセスは具体的にどう変わりつつあるのだろうか。

課題探索&ソリューション仮説フェーズ

 最も大きな変化が起きているのが、この「課題探索」フェーズだ。

マーケット調査:「もうAIなしではできない」

 「Before AI」時代に「一生懸命Googleで検索」 していたマーケット調査は、AIによって激変した。

 「マーケット調査は多分もうAIなしではできないぐらいです。スピードが全然違うじゃないですか」

 Hondaの山田氏は、こう断言する。同社は北米でも多く車を販売しているが、英語の一次情報をAIに日本語化・要約させることで、リサーチ効率が劇的に向上したという。

 コンサルタントの石亀氏も、AIによる詳細な調査(いわゆる「Deep Research」)を日々の業務でかなり活用していると語る。市場規模の試算や競合調査、手に入れたPDFレポートの要約などだ。

 ただし、この活用法には「業界」による向き不向きがある。石亀氏が現在手掛ける生鮮食品の流通(一次産業)は、情報がデータ化されていなかったり、主観的な情報(美味しいかどうか)が多かったりするため、AIが強みを発揮しにくいという。データ化されている業界ではAIが有効だが、そうでない業界では「いまだに泥臭く足で稼ぐ」必要がある。

ペルソナ設定:「箱根のおっちゃん」と「中央値」の限界

 リサーチの先にある「ペルソナ設定」にもAIが使われ始めている。山田氏は、AIに特定の役割を与えて「プレインタビュー」の練習相手として活用しているという。

 「(ドライブ好きの)おっちゃんのペルソナ像をChatGPTにやってもらいました。(中略)もちろん合っている、合ってないというのはありますが、最初の第一弾の初期仮説としては十分使えるし、練習になるって僕は思っています」

 一方で、AIによるペルソナ設定には明確な「限界」もある。

 第一に「深層心理」だ。ネット上の情報は「素の自分」とは限らないため、課題探索で重要な深層心理までAIの答えを信じきれない、と石亀氏は指摘する。

 第二に「AIの特性」だ。山田氏は、AIの強みをこう分析する。

 「僕の中でのChatGPTなどのAIは、正規分布があったとしたら真ん中辺(中央値的な人物像)に強いと思うんですよね。(中略)でも、正規分布の端っこのレアケースな人とかエクストリームなユーザー像になりきってもらうというと結構難しいんじゃないかなという印象があります」

 この課題に対し、山田氏は「合わせ技」を提案する。データが少ない領域(例:農家)でも、まずリアルでインタビューし、その結果をAIにインプットすることで、ペルソナの解像度を上げていくアプローチだ。

アイディエーション:「手放せない思い」と「チームの一体感」

 AIはアイデア出しの壁打ちや、発散したアイデアの分類・整理にも使える。

 しかし、両氏とも「アイディエーション」そのものをAIに任せることには慎重だ。

 「個人的には、アイディエーションは人でやった方がいいかなと。(中略)そこをAIに任せちゃうというのはなかなか手放せないなという感覚が正直あります。(中略)どういう思いを持って、こういう打ち手を作って、だからこういうのを作っていきたいんだという思いが乗る方がチームとしては動きやすくなる

 山田氏もこれに同意し、「チームの熱量や一体感という大切な部分が抜けてしまう」 可能性を指摘する。AIで効率化はできても、最後の「決め切る」プロセスには、人間のエネルギーが不可欠だ。

ソリューション仮説検証とMVP構築フェーズ

 アイデアを検証し、形にしていくフェーズでも、AIの活用が進んでいる。

高速プロトタイピング:「Figma Make」と「できすぎる」リスク

 「Before AI」では手書きやAdobe XDで作っていたプロトタイプも、今はAIが高速で生成する。画像生成AIでストーリーボード(紙芝居)を作ったり、日本語を伝わりやすく構成し直してもらったりといった活用だ。

 さらにクリエーションラインの荒井氏は、Figmaが発表した「Figma Make」のデモを紹介。自然言語のプロンプトで、画面遷移を含む「動く」Webアプリやゲームまで作れるという。

Figma Makeデモ(社員食堂お弁当注文システム)
Figma Makeデモ(社員食堂お弁当注文システム)

★↑「要更新」とのコメントがあったようなので、詳細を要確認。

 山田氏は、アイディエーションでまとめた「エレベーターピッチ」をそのままFigma Makeに入れるだけでプロトタイプができてしまう、と期待を寄せる。

 ただし、ここにも新たな「注意点」が生まれている。モデレーターの根岸氏は、別の案件で同様のツールを使った経験から、「下手に良くできすぎるがゆえに、ディテールの方にユーザーが引っ張られてしまうリスク」 を指摘する。AI製プロトタイプで検証する際は、「今回はこの点を確認してください」という前提説明を丁寧に行い、ユーザーのミスリードを防ぐことが重要になる。

検証設計:「Maze」による自動深掘り

 プロトタイプが高速化する一方で、「検証設計」そのものもAIに任せられるようになってきた。

 「(仮説を)検証するために最もミニマムな検証方法は何か(をAIに聞いたり)、インタビューのガイドラインを作ってもらったりとかアンケートの素案を作ってもらったりとか、そういうこともありますね」

 山田氏はさらに、ユーザビリティテストツール「Maze」の進化に言及する。MazeはFigmaのプロトタイプを読み込ませ、自動でテストを行えるツールだが、AIが「じゃあ具体的になんでそれが使いにくいと感じましたか?」といった「深掘り質問」を自動で行う機能まで登場しているという。

MVP構築:「MVPは不要になる?」

 開発フェーズでは、GitHub Copilot をはじめ、Claude CodeやCursorといったツールがすでに使われ始めている。

 この開発スピードの劇的な向上は、プロダクト企画の根幹にある「MVP」という概念そのものを揺さぶっている。

 「そもそもMVPって何のためにという意味で言ったら、要は開発にお金と時間がかかるからMVPを定義するわけで、別になんかミニマムである必要性がそもそもなくないですか?という世界に入りつつあるのかなと」

 根岸氏のこの問いに、石亀氏も「まったく同じことを言おうとしてて」 と同意する。検証したい仮説を明確化するという意味で、MVPの思想そのものは今も重要だ。ただし、AIによって高速にプロダクトを構築できるようになれば、“Minimum”である必要性は相対的に薄れてくる。

 もちろん、これはまだ未来の話だ。「商用利用という(レベル)のは、やっぱまだまだ難しい。セキュリティであったりとかがAIでカバーされていくと変わっていく」 と石亀氏が指摘するように、現時点ではプロダクトレベルの品質、特にセキュリティやインフラ面には課題が残る。

市場投入・スケールフェーズ:高速化する改善サイクル

 最後に、市場投入後のフェーズだ。

 リリース後もユーザーリサーチは継続的に行われるため、「ソリューション仮説検証」で見たようなAIによる検証サポートが、常にサイクルとして回っていくイメージだ。

 KGI/KPIの数値(定量)データと、AIが要約したインタビュー(定性)データを掛け合わせ、改善サイクルを高速化する。これは、開発と並行して企画やUXデザイナーが顧客の価値探索を続ける「デュアルトラックアジャイル」 の効率化にも直結しそうだ。

まとめ

 ここまで、プロダクト企画の「Before AI」と「現在地」を駆け足で見てきた。リサーチの高速化から、プロトタイピングの自動化、そして「MVP不要論」まで、企画プロセスはすでに大きな変化の渦中にある。

 しかし、AIの進化は止まらない。「GPT-5」 や「Spec駆動開発」 が見据える「近未来」、AIはプロダクト開発をどこへ導こうとしているのか。

 そして、その時「プロダクトマネージャー(PM)に残る役割」とは何か。

 【後編】では、座談会で語られた「AI駆動企画の未来像」と、「人間にしかできない価値」について、さらに深く掘り下げていく。

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この記事の著者

斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)

株式会社翔泳社 ProductZine編集長。 1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以来担当し、2011年4月から2020年5月までCodeZine編集長を務めた。教育関係メディアの「EdTechZine(エドテック...

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