プロダクトディスカバリーにおいて生成AIが活用できるシーン
財部氏は生成AIには確かに高い可能性があるが、得意な領域と苦手な領域が明確に存在しているとした。 得意な領域として、1つ目に、数式やコードのサジェスト、2つ目に構造の整理されていないテキストデータの要約・構成、3つ目にコンテンツ生成が挙げられる。一方、苦手な領域としては、1つ目に誤情報の出力リスク、2つ目に最新情報の取得の遅れ、3つ目に情報が少ない領域でのデータ処理がある。
「生成AIは便利なツールですが、プロダクトマネジメントの文脈においても、得意・苦手な部分を理解し、補助ツールとして適切に活用することが重要です」(財部氏)
続いて財部氏は、プロダクトディスカバリーにおいて、生成AIがどのように具体的に活用されるかの全体像を紹介した。
まず、顧客データの収集・整理では、多くの企業が日常的に収集するVOC(顧客の声)の要約ができる。VOCには営業やカスタマーサクセスでのヒアリング、顧客インタビューのメモデータ、アンケートやレビューのコメント・機能要望など大量にあるはずだが、十分に活用されずにいるケースも多い。
AIによって分類や要約をすることで、確認・分類の大幅な工数削減や、傾向分析など、ニーズ分析の高度化が可能となる。
財部氏は「例えば、感情分析においてもポジティブ・ネガティブ・ニュートラルの分類が高精度で行えるようになっています」と語った。
顧客サンプルデータの生成も可能だ。新たな顧客セグメントやペルソナをターゲットとする際、その領域の理解不足からユースケースの想定が困難であり、適切な仮説を立てることが難しい。AIの利用により、サンプルデータの生成が容易となり、そのデータを活用して顧客理解を深めることが可能である。
課題・ニーズの分析におけるユーザー課題やソリューション企画における解決策のアイデア出しも生成AIで実現できる。アイデアは個人の経験やバイアスによって狭まることがあるが、AIならバイアスなく、多岐にわたる解決策やアイデアを提示できる。ただし、顧客情報や前提情報をいかにリッチにするかが鍵となる。
ソリューションの企画ではPRD(Product Requirements Document)の作成補助も可能だ。PRDなどの多くの関係者によって閲覧される書類には常に高いクオリティが求められるため、プロダクトマネージャーは、ドキュメント作成に多くの時間を割くことが一般的である。AIの活用により、条件に合わせたフォーマットのドキュメントを作成することで、クオリティの担保や工数の削減が可能となる。ここでも前提情報を用意することが重要だ。
財部氏は「顧客ニーズ、目的、制約条件、依存関係などの情報を正確に伝え、どのようなフォーマットでPRDを作成してほしいのかを明示する必要があります。ユーザーフィードバックやユーザーの各種情報をインプットすることで、自社のコンテキストに合わせたPRDを作成することが理想です」と述べた。
アイデア出しやPRD作成の前提として固有の顧客情報や前提情報の入力が求められるが、そのためにはセキュリティが担保された環境も必要となる。パブリックに使われるAIに入力すると情報漏えいのリスクがあるからだ。
ソリューションが適正かを検証する段階では、プロトタイプやモックアップが必要となる。ここでも生成AIが活躍する。UIデザインのパターン出しや手書きのスケッチ、プランの提示などによって、デザイナーの負担を軽減してさまざまな検証を短期間に実施できる。「デザイン系のツールは進化が早く、数多くのツールが市場に出ています。このようなツールの選定が今後のキーポイントとなると考えられます」(財部氏)