「提案価値を連鎖させる」ためのストーリーを描く
では、この「『プロダクト作り』を『新たなアセット作り』と捉える」作戦をとる場合において、提案価値の連鎖をどのように築いていけばいいのだろうか。これはつまり「事業展開をどう図るか」という問題だ。
「顧客やユーザーの状況を表面的に見ているだけでは、展開の奥行きを出すのが難しい。同じ地平で物事を考えている限り世界は変わらない」と市谷氏は指摘する。「表面的でなく物事を見る」ためには、見るための切り口を変える必要がある。ここで問われるのは、プロダクトを作る側が「世の中をどういう視点で見るか」ということであり、事業のより本質的な思想に関わるテーマになる。
市谷氏は「ものを見る際の切り口を変える」方法を考える一つのヒントとして「ダイエット成功を目的とした体重管理アプリ」を例に挙げた。
近年、世の中にはこうした「体重管理アプリ」が多く存在している。スマートフォンで食事の写真を撮ると、食材やカロリーを判定してくれたり、メニューの傾向から次に食べるべき食事の提案をしてくれたり、運動メニューを作ってくれたりするなど、機能も多様だ。
「『ダイエット』という行為そのものが、ユーザーにとってはとても大きなペインなので、その解消に振り切って突破できれば、ビジネスとしても成功する可能性はあるだろう。ただ、こうしたアプリは基本的に『ダイエットのための体重管理』という同じコンテキスト上にある。あえてコンテキストの異なる、別の世界線をイメージすることもできるのではないか」(市谷氏)
例えば「自分が取った食事や、その時の状況」「栄養や健康の状況」といったものを、ユーザーが友人や家族などと共有したとしたら、何が起こるかと考えてみる。見かねた家族から食材の支援が得られたり、同じくダイエットに挑んでいる友人との間に「一緒に頑張ろう」という協力関係が生まれたりするかもしれない。これはあくまでも例に過ぎないが、このように切り口を変えて「見る」ことで、単なる「ダイエットのための食事管理」から、連絡が途絶えがちだった親類や知人との「コミュニケーションのきっかけ」という、かなりコンテキストの違う「価値」につながる可能性を感じられるのではないだろうか。
「こうした『ものの見方』に絶対的な正解はない。正解を探すのではなく、どこに価値や意味を置いて『見ているか』が問われる。それは『世界観』が問われるということ。そこに他者の共感が伴えば、プロダクトは事業として期待されるサイズ感に近づいていく」(市谷氏)