PSFとPMFを両立させるための新しい「作戦」を考える
では、プロダクトを「打つ手なし」の状態に追い込まずに、ビジネス規模を確保するためにはどうすればいいのだろう。
例えば、分かりやすい「顕在課題」ではなく、より本質的だがまだ顕在化していない「潜在課題」へフィットするソリューションを考えるという方法があるかもしれない。しかし、そもそも顕在化していない課題を最初に想定することの難易度が非常に高いことが問題だ。また、プロダクトの対応領域、つまり顧客を広げていくことで、各領域にある「顕在課題」を次々と刈り取りながら「小さい利幅を束ねてビジネス規模を作っていく」というやり方も考えられるだろう。
市谷氏は、このセッションにおいて「もう一つ、別の作戦を考えたい」とした。その作戦とは「実質的にPSFとPMFをずらす」戦略だ。『ずらす』とはどういうことなのか。
「まずはPSFを念頭に何らかの課題解決に寄与するプロダクトを提供し、ユーザーによる利用を進める。利用が進むことで、プロダクトによる新しいユーザー体験が増えれば『状況の変化』が起こる。その変化した状況を新たな前提として、PMFを作っていくという勝負の仕方はできないだろうか」(市谷氏)
この「ずれ」を前提にフィットを考える際には、前出の「仮説キャンバス」を2つ用意することで「1手目のプロダクトと、そのPSFによって変化した状況を新たな『現状』として、2手目のプロダクトでマーケットへのフィットを検討する」という方法をとることができる。
「この場合、1手目のプロダクトによって作る状況の中で優位性を作っていけるといい。1手目で今までになかった顧客体験を創出できれば、そこに生まれるデータはかなり特異なものになるはず。それを保有しているのは自分たちの組織しかないわけで、それは優位性となる。それを活用することで、2手目で他社に対する差別化や勝ち方を見つけられるのではないか」(市谷氏)
この作戦における最大の問題は「展開に必要な時間を許容できるか」である。この作戦は、端的に言えば「1手目で高い利益が出せるかどうか分からないけれど価値のあることをやり、2手目でビジネス的な着地点を探る」というものだ。つまり、そのために掛かる時間を組織として許容できるかどうかが肝になる。
市谷氏は「結論としては、物の見方を変えることが必要」だとする。
「目の前のプロダクトで短期的な収益を上げることだけを考えると、この作戦はとれない。プロダクト提供が『新しい機会の創出』『優位性作り』『新しいアセット作り』であると考える必要がある。日本では歴史のある企業ほどキャッシュリッチなところがあるので、この作戦はむしろ、そうした組織にこそ向いている。しかし『短期的な収益』を重んじてきた組織にとっては許容しにくいものでもある。その場合は、組織としての意識変革が必要になるだろう」(市谷氏)