市場リスクを抑えつつ、技術に真摯に向き合う
前回の記事で説明したように、生成AIという不確実性の高い技術を活用することで、技術側のリスクを取る分、市場の不確実性(リスク)を抑えるべきだ(連載第1回参照)。言い換えれば、まったく新しい市場を創出するようなリスクを負わずとも、生成AI技術によって、これまでは想像もできなかったような大きな価値を提供できるということである。
一方で、技術の不確実性に向き合わなければならないのは自明である。事業開発とは、どういうリスクを取るかのバランス調整・選択をするゲームであり、それは生成AI領域の事業づくりでも変わらない。では、技術の不確実性を筋良くコントロールするために、プロダクトマネージャーは生成AI技術にどのように向き合うべきだろうか。
「まず試す」カルチャーの重要性(1/2)
生成AI技術は黎明期ゆえに不確実な部分が多く、そこにこそ世間の認知と真実とのギャップが存在する。このギャップを特定し、そこからリスクプレミアムを得ることが、生成AI事業づくりの肝となる。つまり、「世の中はまだ実現できないと思っているが、実はできること」を特定するのである。
従来のITプロダクトの開発では、技術について、ユーザーとしても作り手としても一定の経験があるため、必ずしも自らキャッチアップのために手を動かさなくともある程度の判断ができた。しかし、生成AI技術に関しては、まだサービスが出そろっていないために、漫然としているとユーザーとしての経験も不足する。積極的に触れていかなければ、そもそもキャッチアップすることが難しい。
生成AI技術は、インターネットの登場前後と同様の大きなパラダイムシフトを引き起こしていると考えると分かりやすい。例えば、インターネットサービスを一度も利用したこともなく、開発したこともない人が、いきなりインターネットサービスを作ると言っていたら、そのサービスの質は期待しづらいと思われるだろう。生成AI技術についても同様であり、プロダクト開発に関わる全員が「無知の知」を自覚し、謙虚な姿勢で学ぶ必要がある。
ここで言う「まず試す」とは、ユーザーとして生成AI技術を使ってみることに加え、自分で軽量なプロトタイプを作成してみることも含む。例えば、ChatGPTや最新のサービスを日々の仕事や生活に活用してみることはもちろん、思いついたアイデアをすぐにAPIやアプリケーション(GPTsやDify.AIなどのノーコードツールでも)を活用し実現してみることだ。まだ世の中で十分に認識されていない、あるいはあいまいにしか理解されていない生成AI技術で実現可能なことの最前線を、高い解像度で理解することが不可欠なのだ。自ら手を動かし、技術の可能性と限界を探ることで、世間の認知とのギャップを発見し、そこから事業機会を創出していくことができる。