ビジネスチャット「Chatwork」の価値創出を担う3つの専門組織
株式会社kubellは、「Chatwork」を2011年にリリースし、ビジネスチャットのパイオニアとして存在感を発揮してきた。とりわけスモールビジネスから中小企業では圧倒的なシェアを誇り、日本の商習慣に合った国産ツールとしての使いやすさに定評がある。コロナ期を経て、日本企業の新しい働き方が模索される中、ビジネスプロセスそのものを提供するクラウドサービス「BPaaS(Business Process as a Service)」を事業化している。今後は「Chatwork」をコミュニケーションのインフラから、BPaaSとの連携を深めて「働く」を総合的に支援するプラットフォームへと進化させていこうとしている。
そのプラットフォームとしての価値創出を担うのが、Chatwork事業のプロダクトマネジメント部に属する「グロースチーム」「コアチーム」「プロダクトオペレーションチーム」の3組織だ。「グロースチーム」はKPIドリブンでプロダクトの価値成長を促進し、ユーザー同士のコミュニケーションを活性化して継続率を高めるために必要な機能の開発・改善を集中的に行う。また、「コアチーム」は決済、認証などの基盤機能に加えて、ユーザーの有料化転換を促進していく戦略を担っている。
そして、あらゆる分析の基盤となる環境整備を担い、両チームと密に連携してデータ面や分析をバックアップするのが「プロダクトオペレーションチーム」というわけだ。
定量/定性データを武器に社内を束ね、事業成長を導く「グロースチーム」
グロースチームに所属する新井氏は、プロダクトマネージャーとしてプロダクトのグロースをミッションとして担う。ユーザーの行動や動向についてデータ分析を行い、継続率の向上を目的とした施策へとつなげることが重要な役割だ。前職の株式会社リクルートでは、「保険チャンネル」や「ホットペッパービューティー」などのプロダクトを担当。最も長く関わった「ホットペッパーグルメ」では、クライアントの動向や継続率、単価などのデータから仮説を立て、活用率向上を目的とした施策の企画や、法人営業の事業戦略立案などを経験してきた。
新井秀信氏
株式会社kubell プロダクトエクスペリエンスユニット プロダクトマネジメント部 プロダクトマネージャー
「通常、どのようなプロダクトもグロースするには、よりたくさんのユーザーに使っていただく必要があります。そうなると、やはり重要な指標として『継続率』が挙がってきます。継続率の高いユーザーほど、プロダクトへの満足度が高いと考えられるからです。そこで、継続するユーザーとしないユーザーの比較を行うことで、継続するユーザーの特徴的な行動や利用頻度の高い機能を見出し、その行動や機能利用を促すことで、ユーザーの継続率を向上させる施策に落とし込んでいます。例えば、継続率の高いユーザーについて『メッセージを送る。リアクションする』という行動特性が見出せた場合、それらを促進する施策を考え、社内での実施につなげます」(新井氏)
2024年7月に社名を変更し、「Chatwork」のみの単一事業からBPaaSなどを加えた複数事業へと進化している同社だが、「Chatwork」で抱える中小企業のユーザー基盤を拡大していくことはBPaaS事業や新規事業の前提と位置づけられており、そのプラットフォームとしてのさらなる成長を牽引する「グロースチーム」は重要な存在だ。
「大枠としてKPIドリブンなグロースの取り組みにおいては、定量的なデータの分析から、大きな流れの中でプロダクトをグロースさせる施策を見出すことが求められます。とはいえ、VoC(Voice of Customer)など、定性的な情報も重視しています。定量的なデータ分析からユーザーの傾向を見出して、その理由をユーザーの声から探ったり、逆に使用頻度の高いユーザーに定性的なインタビューを行い、定量データと照らし合わせて可視化・抽象化を行ったり。比重や順番は違っても、定性・定量データのいずれも重要であることには違いありません」(新井氏)
例えば、定性的なインタビューからスタートした顧客解像度を高める取り組みでは、定量的な分析を行ったうえで、グロースチームがターゲットとする最優良顧客像を表す要素の一つとして、士業やWeb制作会社のような、他の企業と協働して成果を上げる『プロジェクト型ビジネス』というキーワードを抽出した。こうした分析において新井氏は「定性・定量データを行き来しながらも、最終的には定量を定性にどう落とすかが肝心」と語る。確かに数値から何らかの傾向が見えても、定量的に表現していては社内のコンセンサスは得られにくい。定性化して言語化することで、共通のイメージを持ちやすく、施策の方向性も明らかになるというわけだ。
「それができれば、社内において『何のためにやるのか』という目的の理解や意識共有が行え、一人ひとりのモチベーションが上がって社内がまとまり、最終的にビジネス成果につながると信じています。当然ながら、それを実現する手法や施策については議論が生じますが、方向性はブレることがないため、仕事を建設的に進めることができ、プロダクトのグロースに大きく貢献すると考えています」(新井氏)