最初の仕事:社長の「頭の中」をトレースせよ
スキルセットと並行して、1人目PMが着任して真っ先に取り組むべきことがある。それは、プロダクトの企画を練ることではない。「社長の頭の中をトレースする」ことだと蜂須賀氏は語る(第2回)。
1人目PMは、今後増えていく開発メンバーや他部署の社員に対し、会社のビジョンや文化を伝える代弁者としての役割も担う。その際に経営者の考えとズレが生じることは致命的だ。
蜂須賀氏は、社長が登壇した動画をすべて視聴して言葉遣いや比喩をメモしたり、採用面接に同席させてもらったりすることで、その思考を徹底的にインプットし、自らの言葉で語れるようにトレーニングを重ねたという実体験を明かした。
「プロダクトマネージャーは『ミニCEO』かどうかという議論がありますが、私は、特に1人目PMはミニCEOだと考えています。会社全体を『国』と捉えた場合、PMは一つの『都市』を担っている。自分が『東京都知事』だと考えれば、都としてやるべきこと、国や他の地方と連携してやるべきことが見えてきます」
このメタファーは、1人目PMがプロダクトという領域に閉じず、常に事業全体における自らの役割と責任を俯瞰的に捉えるべきであることを示唆している。
プロダクト戦略の羅針盤:「未来⇔現在」「業界⇔会社」の4象限で思考せよ
経営者との目線を合わせた上で、PMが取り組むべき核心がプロダクト戦略の策定である。蜂須賀氏は、連載の第3回で触れた実効性のある戦略を立てるための思考フレームワークとして、「未来と現在」「業界と会社」という2つの軸で構成される4象限を紹介した。
「未来の理想から逆算した今やるべきことと、現在の状況から積み上げた先に描ける未来を接続させることが、実効性のある戦略に繋がります」
具体的には、以下の4つの象限を常に行き来することが重要だと同氏は語る。
- 【現在×会社】:自社のリソースや強み・弱みを正確に把握する。
- 【現在×業界】:現在の市場環境や競合の動向を分析する。
- 【未来×会社】:未来予測に基づき、自社がどうあるべきかというビジョンを描く。
- 【未来×業界】:半年後、1年後の業界トレンドや法改正を予測し、自社の立ち回りを考える。
このフレームワークは、マクロな視点とミクロな視点、そして長期的な視点と短期的な視点を統合し、地に足の着いた戦略を導き出すための羅針盤となる。PMはこれら4つの視点を持ち、ダイナミックに思考を巡らせることで、プロダクトが向かうべき航路を定めるのだ。
Q&Aから見るリアルな現場のPMの悩みと解決策
イベント中、視聴者からは現場のリアルな悩みが寄せられた。その一つが、「事業寄りの施策に対するエンジニアのモチベーションをどう高めるか」という問いだ。
これに対し蜂須賀氏は、まず採用段階で「事業の成長を喜べるエンジニア」を集める文化醸成が重要だと前置きしつつ、既存チームに対しては次のようにアプローチすることを提案した。
「今、事業目標を効率的に達成すれば、自分たちが楽しいと思える技術的挑戦をするための『余白』が生まれる。そのためにまずは事業に貢献しようと伝えるのです。その『楽しいこと』を実現する余白を作るために、今これをやっているのだと説明するのは有効な方法だと思います」
また、「ロードマップの粒度」に関する質問に対しては、エムスリーの山崎聡氏との対談で得た「ロードマップはカーナビぐらいでいい」という結論を紹介。目的地が遠い場合は全体の方向性を示し、近づくにつれて解像度を上げていくカーナビのように、ロードマップも直近の計画は明確に、1年、2年先は抽象度を高く設定すればよいと回答した。
これらの回答は、1人目PMが理論だけでなく、チームの感情や状況に寄り添いながら現実的な解を見出していく実践力が求められることを浮き彫りにしている。