
企業がビジネスとしてプロダクトを作るにあたって、「対象の状況はどのようなものか」「切実な課題は何なのか」「適したソリューションはどのようなものか」といった、多くのことが「不確実」な状態からスタートするのが普通だと市谷氏は言う。
このように、不確実性が高い中で「正しいものを正しく」作っていくために、市谷氏が提唱している手法が「仮説検証型アジャイル開発」と呼ばれるものだ。

この手法では、コンセプトの検証から実際の開発までの過程を大きく4つのフェーズに分け、各フェーズでは、プロダクト開発の「目的」「実体」「手段」「順序」について順に選択を行っていく。選択は、「モデル」と「現実」との間を行き来しながら(仮説検証をしながら)進める。フェーズが進むにつれて変化するのは「選択肢の幅」だ。
「不確実性が高いというのは『分からないことが多い』ということ。つまり、仮説検証を通じて『分からないことを分かるようにしながら』進めていくのが、検証型アジャイル開発のスタイルになる」(市谷氏)

「分からないこと」が最も多いのは、言うまでもなくプロジェクト初期の段階である。だからこそ、最初は選択肢を可能な限り広くとっておく。
そして「分からなかったことが分かる」ようになるのは、仮説検証を通じて「現実」に直面したときだ。その「現実」を通じて得られた知見をもとに、選択肢を絞り込んでいく。
選択肢の絞り込みを段階的に行うことで「不確実性の高さ」に対処するのが基本戦略になる。もちろん、仮説検証の過程では、できる限り「現実」に近い状況を、随時作っていく必要がある。そのために使う時間や予算のプランニングも必要だ。
「不確実性への適応とは、選択を最適化するために『学習と意思決定の反復化かつ段階化を目指すこと』だ」と市谷氏は言う。
では、こうしたものづくりの環境はどのように整えればいいのだろうか。市谷氏は「プロダクトオーナー(PO)の民主化」を勧める。
「選択肢や仮説検証の結果から意味を『考える』作業を、1人のPOに任せるスタイルは『選択肢の最大化』というコンセプトに反する。それをPOに任せてしまうことによって、POの視座がプロダクトの持つ可能性の限界(ボトルネック)となってしまう。これは、大きなリスク要因だ」(市谷氏)
「POの民主化」とは、POから「チーム」へと視座を広げることで、視座の多様性を確保し、この「多様性」によって「不確実性」に対処する方策を意味する。チームが共通認識として持つべき「基準」は、仮説検証のプロセスを通じて共有していく。POにとっては、チームの中心的な立場で仮説検証のサイクルを回していくことが重要な仕事となる。
