豊かな仮説を作る方法とは
続いて、プロダクトの成功に欠かせない「豊かな仮説」をどう組み立てていくのがよいのか解説した。小城氏は「プロダクトのビジョンを分解するところから始める」という。
ビジョンを「誰を」「どんな状態にしたいのか」に分け、これを100本ノックでたくさん考える。ここで、いきなり解決策を考えるのではなく「どういう状態であるべきか」について熟考することが大事だ。そして次に、それに対して最適な解決策であるWhatをまた100本ノックで考え、そのうちの最適なものを選んでいくのである。
「エンジニアだった頃は、プロダクトをどうよくしていくかを考えるときに、すでにあるソフトウェアを基準に考えていました。プロダクトマネージャーになった今は、もう少し中長期的な視点でどうすればビジョンを達成できるのかということから、発想するように心がけています」(小城氏)
小城氏は「一つのビジョンを目指すにも『誰を』『どんな状態にするのか』は無限に考えられる。ここを忘れてしまうと『すでに決めているペルソナ』を『すでに決めている状態』にするにはどうすればいいか、と徐々に視野が狭くなってしまう」と念押しした。
例えば「毎日の食事を考えることから解放される」というビジョンを達成するフードデリバリープロダクトを作るとする。ここでもWhyは多様に考えられ、例えば「多忙な共働き夫婦が、ストレスなく食事を摂れる」というものもあれば、「多忙な在宅勤務の一人暮らしの人が、栄養を摂れる」「毎日きちんと自炊する人が、手間なく献立を考えられる」といったWhyも設定できる。各Whyに対する解決策も「ミールキットプロダクト」「フードデリバリープロダクト」「カップラーメン」「栄養管理プロダクト」など複数考えられる。
どのWhyがよいかは、マーケットの広さや競合の有無、自社の強みが生かせるかなど、市場分析して最適なものを選択し、そのWhyに対する解決策を考えていくという流れが理想的だ。つまり「アイデアに執着しないことが重要」だと小城氏は強調した。
実際には、ユーザーの声や競合の新機能リリースの動向などを踏まえて「こういう機能があったらよいのでは」と、Whatから検討することが多いかもしれない。だがここで大事になるのが「浮かんだアイデアに執着せず、WhatをWhyの階層に持ち上げ、100本ノックをすること」だと小城氏。チームでディスカッションしていくことで、よりよいアイデアを探索できるようになるからだ。
もちろん、異なるWhyでも同じ解決策(What)になるケースがある。「そのような場合にだそ君が生まれやすい」と小城氏は注意を促す。だそ君を産まないためにも、チームで検討する際には「誰をどんな状態にしたいか」のWhyに立ち返ることが重要だ。
ちなみに、だからといって複数のペルソナをターゲットにしてはならないということではない。ユーザーを拡大していく場合も「誰をどんな状態にしたいか」チームで認識を合わせていけば問題はないという。
プロダクトづくりは仮説の検証。真の評価は市場に出してみないとわからない
「プロダクトを作ることは仮説の検証です。自分たちが思いついた大胆な仮説が合っているかどうかは、市場に出してみなければわからないことが多い」と小城氏。もし市場にリリースしてみて、ユーザーの反応が悪ければ、エンジニアが作ったコードを捨てなければならないことも出てくる。だが、そのコードを作ったことは決してむだだったわけではなく、何が正しかったのかを知るための仮説検証に活用されたということだ。「エンジニアは嫌な気持ちになるかもしれませんが、これからも仮説検証に協力いただけるとうれしいです」と小城氏。
そしてプロダクト志向なチームを作るためにも「プロダクトづくりに関わる全員が、4階層を考える議論に参加してほしい」と言う。4階層について認識合わせができるため、同じ方向を向いてプロダクトづくりにまい進することができるようになり、透明性の高い組織を作っていくことができるからだ。
「さらに詳しくプロダクトマネジメントについて知りたい方は、3月3日に発売された書籍『プロダクトマネジメントのすべて』を読んでほしい。プロダクトを成功に導くためのチェックリスト『プロダクトマネジメントクライテリア』も公開しているので、ぜひ活用してください」
小城氏は最後にこう呼びかけ、セッションを締めた。