コンウェイの法則を逆手にとり、理想の組織を構築
マネーフォワードは、「お金を前へ。人生をもっと前へ」というミッションを掲げ、個人向けのSaaSの家計簿アプリ「マネーフォワード ME」や、BtoBのバックオフィス向けSaaS「マネーフォワード クラウド」などを提供している。広瀬氏の所属するマネーフォワードビジネスカンパニーは、後者のBtoB向けSaaSが担当領域だ。
「マネーフォワード クラウド」はコンポーネント型ERP戦略を採用し、20を超えるサービスで企業のさまざまな課題を解決している。マネーフォワードビジネスカンパニーでは、CPOである廣原亜樹氏のもと、CPO室を設立し、50人を擁するプロダクトマネージャー組織を整備してきた歴史がある。
CPO室設立前は、開発や営業のアジリティを重視するために、本部単位でのスモールチームで活動しており、各本部にプロダクトとプロダクトマネージャーが所属していた。本部を超えた組織は存在せず、プロダクトマネージャー同士の交流も定期的なものはなかった。
広瀬氏はメルヴィン・コンウェイが唱えた「コンウェイの法則」(システムをデザインする組織は、そのコミュニケーション構造をまねた構造の設計を生み出してしまう)を引用し、この法則がマネーフォワードにも当てはまっていたと話した。
CPO室の設立は2021年。この年はかなり多くのSaaSプロダクトをローンチしたものの、プロダクトマネージャー組織の形やプロダクトマネージャー同士の連携が不足していたのだ。主要プロダクトがそろってコンポーネント型ERPとしてのスタートは切れたものの、各プロダクトを組み合わせて使用した際のUXに課題が見られた。
従来の本部単位のチームはそのままで、CPO室には各本部を超えたプロダクトマネージャー全員が兼務する形でスタートした。コンウェイの法則を逆利用し、組織の構造を理想のSaaSプロダクトの形に合わせ、プロダクト同士が連携し、組み合わせて使用した際のユーザー体験が向上することを目的としたのだ。
「CPO室で最初に実施したことは、非常にシンプルであり、コミュニケーションプランの整備が中心でした。月に1回、すべてのプロダクトの開発進捗を共有するための定例ミーティングの開催や、四半期に1回、すべてのプロダクトのデモンストレーションやロードマップを共有するプロダクト共有会を行い、プロダクトマネージャー同士の交流を増やしていきました」(広瀬氏)
この取り組みで、プロダクト個別の課題の共通点やプロダクト横断でのUXの課題がプロダクトマネージャー間で共通認識として共有され、解像度が高い状態になった。結果として、横断UXの要望管理やその向上改善を目指した開発プロジェクトが始まる流れが生まれた。
発足から半年が経過した後、CPO室の運営はセカンドステップに移行し、20を超えるプロダクトをユーザーの業務との関連性に基づいて分類した。この段階では、関連性の高いプロダクトのUXの向上に焦点を当てることになった。さらに、個別最適化、全体最適化に加え、部分最適化の追求も考慮するようになった。これらの取り組みを効果的に推進するため、組織は「グループ」という単位でまとめる構造へ変わっていった。
経理財務、人事労務など関連性の高いプロダクト群を基に、複数の新しいグループが形成された。デザイナーは「デザイン室」に所属し、この室も同じようにグループ分けされている。各グループのリーダーであるプロダクトマネージャーは、本部のプロダクト戦略部長の職を兼務している。デザイン室はCPO室とは異なる組織であるが、デザイン室のグループリーダー、プロダクトマネージャー、デザイナーが一対一の関係で組織されており、これにより非常にスムーズなコミュニケーションが実現されている。