対話・可視化・目的意識──「火種」を未然に防ぐプロジェクト設計
吉澤氏がプロダクトマネージャーとして実践する準備の中で、最も重視しているのは目的の明確化だ。「まずは目的をしっかりと定めることが何より大切です」と語り、ターゲットや開発の理由を明らかにすることで、「参加メンバーが『そういうことなんですね』と納得し、同じゴールを目指せる状況をつくる」ことを大切にしている。
情報共有では、透明性を徹底している。吉澤氏は「議事録や資料は一部の人に限定せず、基本的にはチームやプロジェクト関係者、さらには全社に共有する方針を取っています」と説明し、進行中の考えや目標も広くオープンにしている。
指示による管理ではなく、巻き込みの姿勢も重要視している。「『私たちはこれをやるので、あなたたちはこの部分をお願いします』という形で、Howだけを求めることは避けています」と語る。これは自律的な行動を引き出すためであり、「誰しも『なぜこれをやるのか』という疑問を抱いた経験があると思います。指示されるだけでは、面白さも納得感もないですから」と述べる。
こうして目的を共有しておくことで、手法がうまくいかない場合でも柔軟に対応できる。「本来やりたかったことを思い出して、別の手段を考えることができる。それが結果的に、チーム全体の協力体制や自律性を高める『チームワークマネジメント』にもつながっていると思います」と分析する。
プロジェクトの合意形成では、一方的な提示ではなく対話を重視する。「まずは自分の中でたたき台となるゴールを提示しますが、そこに対して『こうした方が良いのでは』という意見が返ってくることも多く、すり合わせを経て方向性を決めています」と語る。
吉澤氏は、成功するチームとそうでないチームの違いとして「準備の質」を挙げる。「うまくいくチームは、自分たちの考えをドキュメントにまとめたうえで、それを関係者に最適なタイミングで共有しています」と述べる。
一方、言語化が不十分であったり、情報提供の時期が遅れてしまったりすることで、問題が起きるケースも少なくない。「情報を共有しているつもりでも、相手にとってはタイミングが遅い」という認識のズレが生じるのだ。吉澤氏は「早い段階で共有していれば、違った視点や有益な指摘を得られたはず、というケースはあります」と、機会損失のリスクにも言及する。
こうした課題に対応するため、同社ではインセプションデッキの活用を進めている。プロジェクトの目的や背景、スケジュール、関係者などを明確にし、全社に共有するための文書である。また、「品質を最優先にするのか、それともコンテンツを重視するのか」といった優先順位を明らかにする「トレードオフスライダー」も導入し、メンバー間での事前合意を図っている。
さらに、PRD(プロダクト要求仕様書)やOrganization Document(組織体制の文書化)など、各種ドキュメント作成にも注力している。これらは作成後にチームメンバーへ共有し、コメントを募る。

吉澤氏は「PRDなど、ドキュメントの内容が浅いと、『これはどういう意味ですか?』といった鋭いツッコミが次々と寄せられます。気が抜けない環境ですが、そのぶん精度は高まります」と語る。
この背景には、社員の高い当事者意識がある。「開発チームも、自分たちがつくるものを、できるだけ多くのユーザーに使ってもらいたいという気持ちを強く持っています。そのため、なぜこのプロジェクトをやるのか、という点に対しても自然と関心が高まっています」と述べる。