現場の声がもたらす価値
プロダクト改善において現場の声が重要であることは論をまちませんが、その価値を改めて整理します。
1.顧客課題の解像度向上
データやアンケートに加え、顧客の業務フローや運用実態を理解することは、本質的な課題の発見につながり、プロダクト開発の重要な指針となります。
2.信頼関係の構築とチャーンレート低減
自分たちの声がプロダクトに反映される経験は、顧客の信頼感とエンゲージメントを高めます。これは顧客満足度の向上にとどまらず、SaaSビジネスの生命線であるチャーンレート(解約率)低減にも直結します。
3.新しいユースケースの発見
顧客は思いもよらない方法でプロダクトを使いこなすことがあります。こうしたユースケースは新機能開発や新市場開拓のヒントになります。
現場の声に振り回されるリスク
一方で、現場の声に無防備に応え続けることには、注意が必要です。
プロダクトビジョンの希薄化
目先の要望に応えすぎると、本来のビジョンや一貫性が薄れ、機能が継ぎはぎされた「何をしたいのか分からないプロダクト」に陥る危険があります。もしiPhoneが当時のユーザーの声に寄り添いすぎていたら、物理キーボードを搭載していたかもしれません。
未来への投資機会の喪失
細かな要望対応に追われると、技術的負債の返済やアーキテクチャ刷新、革新的な挑戦といった中長期の投資が後回しになり、結果的にビジョンの実現が遠のいてしまいます。
特にプロダクトアウトで生まれた製品は、このリスクを常に意識しておく必要があります。
モノグサにおける「現場とビジョンをつなぐ仕組み」
モノグサでは現場の声をプロダクトに反映させるためのさまざまな仕組みを導入しています。
課題のストック(JIRA)
全社員が現場の課題をチケット化できる仕組み。職種を問わず課題を共有・議論できる場として機能しています。
VoC(Voice of Customer)の収集
顧客の具体的な要望を蓄積する仕組み。「手段(How)」寄りの声をストックしています。
開発優先度会議(四半期ごと)
全社員が参加でき、セールスやカスタマーサクセス(CS)が現場の課題を直接開発に届ける場です。
BP(Business Product)会
事業インパクトの大きい案件について、ビジネスチームとプロダクトチーム双方の意思決定者が集まり緊急的に協議をする場。ビジョンと事業インパクトを天秤にかけ、全社視点で意思決定を行います。
しかし、これらの仕組みはあくまで「現場の声をインプットする」ためのものです。プロダクトアウトの利点を失わないため、モノグサでは以下の仕組みも同時に運用しています。
優先度決定の主体は開発チーム
現場からの課題をどう扱うかの最終判断は、プロダクトマネージャーを中心とする開発チームが担います。これにより、現場と適切な距離感を保ちながらビジョンに基づく意思決定が可能になります。
年間ロードマップの策定
年単位でリソースを計画し、中長期視点でビジョン実現に向けた道筋を描きます。
ビジョン共有の文化
全社合宿や中期経営計画の共有を通じて、社員全員が同じ方向を目指す仕組みが根付いています。

仕組みはあくまで意思決定を支えるための「土台」にすぎません。最終的に重要なのは、プロダクトマネージャー自身がビジョンを深く理解し、覚悟を持って判断できるかどうかです。
現場の課題への共感や顧客からのうれしい声は大きなモチベーションになります。しかしそこに流されすぎず、プロダクト全体にとっての最適解を導き出すバランス感覚が、プロダクトマネージャーには強く求められます。