エコシステム化で戦略的データ活用を促進
「推定状態可視化ツール」と「ユーザー状態再現技術」が誕生したところで、徐々に応用を考えるようになり、データ活用に対する戦略が固まってきた。しかし、データの提供価値を考える際に、”分析の活用”を起点とすると、問題が分かっても改善までに時間がかかったり、コストや手間を考えて結局取り組まなかったりすることも多い。データの価値を「プロダクト開発速度を向上させるもの」として捉えることが重要だという。
「そこでエコシステムをつくり、自律的にさまざまな使い方の段階的な発展が行えるようにしようと考えた。例えば、データ分析するユースケースが1つしかない場合、その優先度が下がるとデータ活用を推進する力がなくなってしまう。しかし、エコシステムとして、いろいろと活用できるようになれば、誰もが自律的に使えるようになる」と川原氏は語った。
エコシステムの構造としては、コアにユーザーデータアーカイブ、そしてその周りにデータを活用するための「ツール」を配置し、その周りに価値を生む「ユースケース」がうまれることを想定した。
つまり、提供価値を「プロダクト開発速度向上」とし、進化のさせ方として「エコシステムを作る」こと、そしてデータの価値の引き出し方を「ユーザーデータアーカイブをエコシステムのコアに」することを”戦略”とするようになった。その結果、エコシステムを拡大しようという兆しが生まれてきたという。
そもそも「バグに対応する側」も大変だが、「バグを報告する側」についても、複雑なユーザー状態の情報が求められ、ユーザーからのヒアリングも難しいなど、なかなかつらいものがある。そうしたときに、簡単に過去の状況を再現できる技術があるならば、それを活用することで、「バグ報告者も、簡単かつ正確にバグを報告できるようにできるのでは」と考えたという。
そして、作成したのが「ステートリプレイURL」だった。もともと「任意時点のユーザー状態再現技術」としてローカルで再現していたものを、Web上のサービスとして実装。ユーザーIDとタイムスタンプをもとにURLを発行すると、その人の状況が共有できる。つまり、バグを見つけたときにステートリプレイURL付きで報告すれば、誰がどの時点でどうだったかが、URLをたたくだけで分かるというわけだ。
これによって、正確かつ手軽にバグ報告が可能になり、再現にかける手間が不要になっただけでなく、修正確認もその場で確実に行えるようになった。そして、バグの発見、現状確認、報告、再現、修正確認のサイクルが回るようになり、複数のステークホルダーがさまざまなユースケースで、ステートリプレイURLを使うようになり、エコシステムが拡大し、同時にデータの組織的価値が向上していったという。