UXリサーチに役立つ「toitta」の5つの機能とは
toittaを開発しているのは、もともと株式会社はてなの新規事業開発を担当していたチームだ。事業立ち上げのプロセスの中で、年間約240件ものユーザーインタビューを実施し、KA法(※1)を用いた分析を重ねていた。そこで直面したのがKA法にかかる工数の大きさである。
(※1)「KA法(本質的価値抽出法)」とは、定性調査の分析手法の一つ。詳細は、今回の講演者の一人である羽山氏がFigmaのコミュニティ上で教材を配布しているので、併せて参照して欲しい。
「KA法でユーザーの声をしっかりと分析すると、ユーザー心理の全体像も、ユーザーの機微も、手に取るようにわかるようになります。さらにプロダクトチーム全員が同じ目線になることができます。いいプロダクトをつくるための必殺技のようなもの。だが、文字起こしや切片化といったデータ化には手間がかかるし、切片から元データへ即座に立ち返れないために、解釈や抽象化の難易度は高いです。アウトプットとして価値マップを作成しても、それだけを見ながら分析者以外のメンバーと共通認識を形成するのは難しい。分析に時間がかかりすぎると、ビジネスや開発のペースと合いません。KA法を日常的に誰もが行えるようにするには、高い壁があると感じていました」と、toittaの事業責任者とプロダクトマネージャーを務める米山弘恭(よねやま・ひろやす)氏は振り返る。
AIを用いることで、もう少しKA法に取り組みやすくできないものだろうか。この課題を解消するために、社内向けに開発されたのが、簡素な「書き起こし+切片化」補助ツールだった。試しに使ってみたところ、「これなしでは仕事が回らない」とメンバーが口をそろえるほど便利だったことから、他社にも提供すべくブラッシュアップを重ね、2024年10月10日に正式リリースしたのがtoittaである。
toittaに録音・録画データをアップロードすれば、約30分で分析に適した形でデータ化され、インタビュー実施後の工程(データの用意・デブリーフィング・KA法での分析・組織内での共有)を強力に後押ししてくれる。toittaの主な5つの機能を紹介しよう。
1.書き起こし
録画・録音データの書き起こしが約30分で完了。話者分離やインタビュイー/インタビュアーの役割判定も自動で行われる。書き起こされたテキストは動画と連動し、見たい部分のテキストをクリックするだけで動画の該当箇所を再生できるため、ニュアンスやトーンといった非言語情報を確認することも容易である。
2.切片化
KA法における切片化とは、インタビューデータという大きな塊の中から、小さな意味のある短文(切片)に分解するプロセスを指す。toittaでは書き起こしと同時に、切片データも自動出力される。切片データも動画と連動しているため、気になる切片をクリックすれば、該当箇所の動画が再生される。切片データは、Miro/Figma/FigJamといったホワイトボードツールや、Microsoft Excel/Googleスプレッドシートのような表計算ツールにコピー&ペーストすることもできる。
3.抽象化(自動グルーピング)
切片データはときに数百にものぼる。膨大なデータを眺めて抽象化していくのは困難な作業である。toittaに搭載された自動グルーピング機能を使えば、生成AIがファクトや文脈から見いだした切片の共通項をもとに、自動で抽象化(グループ化)の案をつくってくれる。
生成AIでしばしば問題になるのは「AIがなぜその結果を生成したのか、人間が読み取るのに苦労する」ことだ。toittaから出力された各グループには「toittaがそれらの切片をなぜ同じグループと判断したのか」の解説がついている。足がかりとして活用することで、抽象化のハードルを下げられるだろう。
4.情報共有(お気に入り/引用機能)
インタビュー結果をレポートにまとめても、それだけでは関係者に情報をうまく伝達しきれないといったフラストレーションを感じたことはないだろうか。関係者全員にインタビュー動画を通しで見てもらったり、書き起こしたテキストを隅々まで読んでもらったりするのは、現実的ではない。toittaがあれば、関係者にぜひ見てもらいたい特定の発話だけを抜き出して、Microsoft PowerPointやGoogleドキュメント、Notion、Slack、Microsoft Teamsなどにリンク付きで簡単に引用することができる。インタビューデータの中で、お気に入りマークを押しておけば、マークのついた箇所だけを抜き出してインタビューのダイジェストを共有することも可能だ。
5.データ統制
インタビューの録画・録音データには個人情報が含まれる。さまざまなフォーマットでデータが散逸すると管理できなくなるし、時に職位や職種によって見せるべきではないデータがあるかもしれない。そのようなデータ統制にまつわる悩みもtoittaで解決できる。プロジェクトやチーム単位で閲覧権限を制御できるほか、toittaにログインする際にAuth0/Okta/OneLogin/Microsoft Entra IDといったシングルサインオンサービスを使えたり、IPアドレスでアクセス制限をかけたりすることができる。利用者がtoittaへアップロードした動画が、生成AIの再学習に使われないよう配慮もされている。
toittaの無料トライアルについて
toittaでは現在、toittaを一定期間無料でトライアルいただける機会をご提供しています。 ご利用を希望の際には、toitta公式サイトからお問い合わせください(ご応募多数の場合は先着順で締め切らせていただく可能性がございます)。
UXリサーチのプロは「toitta」をどう見るか
続いてUXリサーチのプロである羽山祥樹(はやま・よしき)氏が登壇。KA法の有用性やユーザー視点でのtoittaの価値を解説した。
KA法は、「発話録からユーザー心理を付箋(=切片)に書き出す」→「似た付箋をグループにする」→「グループ同士を照らし合わせ似たものを大きなグループにする」→「さらにグループ化を繰り返し、グループ同士の関係性を線や矢印でつなぐ」という手順で進めていく。
「覚悟して取り組めば、数百枚の付箋をまとめ上げるころには、あなたは霊媒師のようにユーザーを自由にのりうつらせるようになっています。何度も何度もユーザーの声を読みこむからです。しかし、そこに至るまでには、膨大な時間を注ぎ込む必要があるため、多くの人は途中で心が折れてしまい、最後までたどり着けない」(羽山氏)
“とにかく時間がかかる”というKA法の課題を解消するために誕生したtoitta。いち早くtoittaのテストユーザーとなった羽山氏は、toittaを使ってKA法の前処理(インタビューの書き起こしと切片化)をしてみた。すると、それまで何日もかかっていたユーザーインタビューの分析が、わずか6時間ほどで終わってしまったという。「60分の録音データをtoittaに放り込んでから、お風呂に入って戻ったら、書き起こしと102個の切片化まで済んでいる。その後は、レビューをしてから、組み上げていくだけ。完徹を覚悟していたら、カーテンの外が明るくなる前には価値マップが完成していました。toittaの生成結果は、プロの視点で修正や調整を行えば、ちゃんと実用に耐える。これはすごいと思った」。
羽山氏がtoittaを評価するのは「UXリサーチの実務の細かいところまで気の行き届いた案を生成してくれる」点。切片化をする際に、単に短文に切り出しているのではなく、前後の文脈を踏まえ、ちゃんと意味が通る形で切り出している。自動グルーピング機能を使ったときに解説が足されるところや、切片をMiroなどにコピー&ペーストできるところなども、toittaの実用性を高めている要因だと明かした。
「きめ細やかな工夫の数々は、toittaを開発したチームが大量の親和図法をこなして、UXリサーチの実務を深く理解している表れです」(羽山氏)
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進化し続ける「toitta」
視聴者から、次のような質問が寄せられた。「UXデザインの成果物として、カスタマージャーニーマップを作成することが多いです。KA法との使い分けをどのようにすべきか教えてください」。
これに対し羽山氏は、「ユーザー分析後の次のアクションとして、あなたが何をデザインしたいかによる」と回答。“時系列”になっている点や“タッチポイント”にフォーカスしている点がカスタマージャーニーマップの特徴だが、その一方、行動の背景にある心理や、常に存在し続ける感情などは可視化しづらいデメリットがあるという。
「人間の心理は、粒度も軸もバラバラで、矛盾しているもの。すばやく正解を見つけようと、整然とした枠組みに当てはめようとすると、正しく理解できません。混沌を混沌のまま理解する。近道しようとせず、地道に積み上げることが大切。ユーザーの心理の全体像や核となっているものを把握したうえで、それをプロダクトに落とし込みたいのなら、KA法が適しています」とアドバイスした。
最後に、米山氏からtoittaの近日中に大型アップデート予定の新機能「質疑自動分類(仮称)」が紹介された。この機能は任意の質問に対して、複数人のインタビュイーがどのように回答したのかを横断して一覧化できる機能だ。「誰が・どこで・Yes/Noと答えたのか」といったファクトを整頓して、差異や共通点を見いだすために活用できる。
「UXリサーチには探索的アプローチと検証的アプローチがあります。これまでのtoittaが『“Why”を発見する探索的アプローチ』であったのに対し、新機能で目指すのは『“What”を特定する検証的アプローチ』も支援できるようにすることです」(米山氏)
「私たち自身も日々toittaのユーザーにインタビューをし、KA法でユーザー心理の理解をしています。ユーザーの声には、『KA法をしっかりできるようになりたい』のと同じくらい、『ユーザーの語ったそのままの言葉を眺めることでユーザーをリアルに実感したい』というものがありました。まったく異なるアプローチに見えるようで、実は相互補完するものだと思っています。データを異なる調理法で料理して、どちらも食卓に並べるようなイメージ。今後、開発予定の機能が50件以上控えています。さらに継続的にデータの出力精度の改善を図っていく予定なので、ぜひご期待ください」と語り、米山氏は締めくくった。
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