バリュー重視の開発文化がPMFの達成につながった
HOKUTOのプロダクトマネージャーは、新しい顧客体験の創造や既存機能の改善を通して、ユーザー(医師)とクライアント(製薬企業など)への提供価値を磨き込むことがミッションだ。いずれもプロダクトマネージャーには医療関連のバックグラウンドがないため、ドメイン知識に関しては医師である社長やメンバー、現役の医師などからインサイトを得つつ、仕様や施策を定義し、フィードバックを受けながらブラッシュアップしている。製薬企業などのマーケティング支援においても、広告やコンテンツの訴求ができているか、ユーザーである医師の反応を見ながら最適化を図る。
こうした開発体制において、プロダクト開発のベースとなっているのが、「For Objective:目的を意識して達成に執着する」「Be Open:情報の透明性・共有を重視する」「In Partners:相手を尊重して行動する」の3つのバリューであり、そこから醸成される企業文化だ。
基本的に同社の勤務形態はフルリモートであり、全員が集まる全社総会は年2回。その中で、バリュー重視の徹底や組織文化の醸成をどのように図っているのか。
山本氏は、取締役としてもコーポレートチームのマネジメントやチーム横断の組織づくりなどに携わってきた。「フルリモートに振り切っている会社だからこそ、バリューや文化の共有・浸透が不可欠。自分たちが何のために業務を遂行するのか、常に腹落ちしていなければ、ミッションの達成などありえない。そこで組織や仕組みづくりには心血を注いでいる」と語る。
このような文化や行動習慣は、「HOKUTO」がプロダクトマーケットフィット(PMF)を達成するにあたっても大きな影響を与えた。目的のためにチームが一丸となって、ユーザーのペインポイントを特定し、その改善によってプロダクトの価値を高め、事業的な成長につなげた、その軌跡を振り返る。
実直にユーザーと向き合い続け、PMF達成の契機となった「検索エンジン」の改善
「HOKUTO」では、当初表面的でわかりやすい改善に注力していた。具体的にはコンテンツの充実、検索タイミングでのおすすめコンテンツレコメンド、検索以外の流入導線の拡充などだ。これらの改善は社内医師へのヒアリングやユーザーインタビューであがっていたことを元に実施していたものだった。しかし、期待したリテンションレートの改善には結びつかなかった。
転機となったのは、ユーザーの離脱行動分析だった。医師へのアンケートやインタビューの中では声としてあがっていなかったが、分析を重ねる中で、多くのユーザーが検索機能を使用中に求める情報にたどり着けずに離脱している実態が明らかになった。原因を探ると、医学用語特有の問題が浮かび上がってきた。難解で文字数の多い医学用語は入力自体が困難で、さらに略語や異なる表記の同義語が多いため、検索機能が効果的に機能していなかったのだ。加えて、病院特有の通信環境の問題により検索結果の表示に時間がかかっていることも判明した。これらは主要ユーザーである若手医師にとって、致命的な使用阻害要因となっていた。
医師視点での情報アクセスのしやすさは、非医師からすると些細とも思える検索体験のわずかな差によって大きく異なってきてしまうため、非医療従事者であるプロダクトマネージャーだけでは改善が難しかった。この課題を解決するため、検索アルゴリズムの専門家と医師による専門チームを結成した。医学用語の辞書登録や同義語の整理に加え、文字列の分割方法など細部にわたる最適化を、長期間にわたり人の目で確認しながら進めていった。多岐にわたる検索ワードに対しての最適化が必要なため短期的には改善効果が見えにくかったが、これらの地道な改善とシステム構成の見直しによる検索スピードの向上が相乗効果を生み、最終的にはリテンションレートは飛躍的に改善。サービスの転換点となった。