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ProductZine Dayの第3回。オフラインとしては初開催です。

ProductZine Day 2024 Summer

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SaaSプロダクトの実例から学ぶプロダクトマネジメントの実践的な考え方

競合優位性を生み出す「知財」とプロダクト戦略との融合

SaaSプロダクトの実例から学ぶプロダクトマネジメントの実践的な考え方 第6回

 新規プロダクトや新機能を考える際のプロダクト戦略として「競合優位性」は見過ごせない観点ですが、それを実現する選択肢の一つとして「特許や知財」があります。クライメートテックの領域で急成長を遂げている「アスエネ」も、特許庁のアワードを受賞するなど、知財を有効活用しているスタートアップの一社。本稿では、同社CPOの渡瀬丈弘さんに、ベンチャー企業や新規事業の知財文化を醸成する上で重要と感じている観点をご紹介いただきます。(編集部)

はじめに

 新規企画や新機能を考える際に、プロダクト戦略としての「競合優位性」を考えることは、記事を読んでいる皆さんにとって日々直面する課題だと思います。競合優位性はフレームワーク整理や革新的な技術など多くの観点から考えていくと思いますが、一つの手法として今回は、知財・特許という切り口で、実践的な取り組みをお話しできればと思います。

 アスエネ株式会社(以下、当社)は、「次世代によりよい世界を。」をミッションに掲げ、CO2排出量見える化・削減・報告クラウドサービス「アスエネ」、企業のサプライチェーンのESG経営の取り組みを可視化できるESG評価プラットフォーム「アスエネESG」、GX・ESG人材特化型転職サービス「アスエネキャリア」といった、気候変動・ESG課題を支援するサービスを提供しています。

 当社では、創業時から知財の重要性を意識して積極的に知財活動に取り組んできました。創業後5年間で200件以上の特許出願を行い、多くの特許を取得してきましたが、スタートアップの中では特許出願数、特許取得件数ともに多い方だと考えています。2024年3月には特許庁IP BASE AWARDでの表彰をいただき、「どのように知財とプロダクト開発を進めているか」「どのように社内文化として知財意識を根付かせているか」というご質問をいただくことが増えてきました。

 今回は、当社における知財と開発戦略の融合について背景を深掘りして、ベンチャー企業や新規事業の知財文化を醸成する上で重要と感じている観点をご紹介したいと思います。

知財・特許は重要なMOAT

 まず、ベンチャー企業や新規事業における強みとは何でしょうか? ベンチャー企業と大企業に分けて整理していくと、これは「業界のしがらみや慣習、常識にとらわれず、ユーザーが必要としているものに対して一直線に技術開発や製品開発ができる」点があげられます。それは顧客・ユーザーの声をもとにした画期的な解決方法や、立案者の技術的なバックグラウンドをもとにした製品アイデアを、圧倒的なスピードで作り込むことで実現されます。

 ベンチャー企業のスピード感の速さは大企業とは違うことが多いですが、一方、大企業は資本力や生産・物流の体制、技術者の層の厚さなどが、ベンチャー企業とはまったく異なります。いくら画期的な事業アイデアがうまれたとしても、後発の事業に追いつかれ、追い越されてしまうことも多々あります。そのため、ベンチャー企業や新規事業は、同業他社はもとより、大企業を含めた業界全体の競争環境の中で、成長し、物事を成し遂げる必要があります

 事業を守る、最も大切な概念にMOAT(モート:都市・城壁の周囲に掘られた堀)があります。MOATはウォーレン・バフェットがさまざまなインタビューで繰り返し述べており、いくつもの引用がありますが、下記の質疑応答の一部が分かりやすいです。

The most important thing, what we're trying to do is to find a business with a wide and long lasting moat surrounded and with protecting a terrific economic castle with an honest Lord in charge of the castle and in essence that's what business is all about.

(投資や事業において)最も大切なこと、私たちが常に探し続けているものは、「広く、長い期間続く堀(Moat)」と、それが守る「素晴らしい事業という城」、そしてその城を司る「誠実な城主」です。本質的に、それがビジネスのすべてです。(1995年のバークシャーハサウェイ株主総会)

・出典:「Warren Buffett believes this is ‘the most important thing’ to find in a business」(CNBC)

 MOATとは事業という城が外敵(競合)から攻められたときに、事業を守り続けてくれる「堀」、つまり競合優位性や企業の強みのことです。長く続く事業を作ろうとする際には、このMOATがあることが必須になります。MOAT=競合優位性と書くと「競合が少ないから大丈夫」と思う人がいるかもしれません。しかしMOATは狭義の競合に対するものだけではなく、すべての代替される選択肢(例:ソフトウェアに対する紙、エクセル)に対する「ユーザーが選び続ける理由」のことを指します。

 代表的なMOATとしては以下の10個が挙げられます。

  1. ネットワーク効果
  2. 囲い込み/スイッチングコスト
  3. ユーザーへのアクセス
  4. コスト優位性
  5. テクノロジー優位性
  6. ブランド
  7. 第一想起
  8. 規模の経済
  9. 免許/許認可/特許/排他的な契約
  10. オペレーションエクセレンス

 「9.免許/許認可/特許/排他的な契約」がまさに、特許や知財といった部分に当てはまり、事業戦略上の非常に重要なMOATを構築できるのです。新たな事業を立ち上げる組織文化において、この視点をもって取り組みができれば、慣習やしがらみを超えたアイデアを知財で守ることで競合優位性を確立できます。

次のページ
競争力を高める工夫:量

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この記事の著者

渡瀬 丈弘(アスエネ株式会社)(ワタセ タケヒロ)

アスエネ株式会社 執行役員 CPO(Chief Product Officer)。2008年、ITコンサルタントとしてキャリアを開始し、社内初のSalesforce認定コンサルタント/認定ディベロッパーを取得。SaaS/クラウドの推進室立ち上げを行い、国家プロジェクトや国内大手企業のDXの推進。 2011年、リクルート入社。2013年に新規事業コンテストでグランプリを受賞し、受付管理SaaS Airウェイトを立ち上...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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