はじめに
前回は「AIに代替されない技術 定性調査のコツ」として「信頼性を高める方法」をお話ししました。プロダクトディスカバリーのためにも、「信頼できる結果」は必須条件です。信頼性を高める方法として「バイアスをかけずに聞く」ことや「意見ではなく、事実を聞く」という観点で、具体的な方法論を説明しました。今回は、後半として「有意性を高める方法」についてお話しします。
AIの活用が重要性を増す中で、プロダクトマネージャーやディレクターのよりよい企画・プロダクト推進のための原則を、基本的かつ実践的な知見としてお話しできればと思います。
意味がない調査結果と原因
定性調査の経験がある方には、こんな経験はないでしょうか? ヒアリングはできたが「意味があまりない結果」になる体験です。何をメッセージとして伝えたいかがあいまいになったり、自分の企画に取り入れにくい別軸の話になってしまったり、といったことは定性調査の場面ではよく起こることの一つです。そもそも意味があまりない結果とは何か、何が成否を分けるかについて、最初にお話しします。
1つの例を出します。ある輸入高級車の選択理由を探るため、自由回答によるアンケート調査を行いました。多くの人から「スタイリングがいいから」といった答えが得られたのですが、回答者がそこに込めた意味合いは読み取れませんでした。そこで、その回答の深掘りを行うべく、追加インタビューを実施しました。そこでは「他の人から見たときに車がどう見えるか」を気にしていることが分かりました。ある男性の場合は「安全な運転をし、家族を愛するドライバー」と見られたいがために選択していることが分かりました。
一見、結果が出たようにも感じますが、新しい洞察や深い見識を与えてくれる結果かというと、「一般的に言われるイメージ」の一つであり、意味がある調査結果とは言いにくいのではないでしょうか? このアンケートの敗因は何にあるかというと「インタビュイー自身に言語化させたこと」です。この言語化には2点、難しい理由が潜んでいます。深い洞察のためには、発せられた言葉を突き詰めて考える必要があります。しかし、インタビュイー自身には「なぜスタイリングが重要か」を突き詰めて考えるインセンティブがありません。1点目の難しい理由として、「インタビュイーには言語化のモチベーションがない」ことです。また、2点目として「言語化の能力がない」ことです。自分の思いを正確に言語化することは難しく、言語化をきっちりできるのは訓練された人だけという難しさがあります。
つまり、有意性の観点で成否を分けるのは「言語化の作業を任せるかどうか」にあります。人間は必ずしも自分の思いを言語化できない生き物であるため、言語化の作業を他人に任せるということは、浅い答えになってしまい、意味のない調査結果になるリスクが高いということです。有意な調査結果を得るには、調査主体側で解釈・言語化し、それを検証する必要があります。
前回の原則で触れた以下の観点が、私の考える原則としての観点です。次の節から、有意性を高める具体的な方法を説明します。
有意性を高める(攻め)
- (どうやって?)言語化の方法を考える
- (なにを?)言葉以外にも注目する