※…Outcomeはビジネス視点からのOutcomeと、利用者視点からのOutcomeの2つに分類されるが、上記は利用者視点からのOutcomeのことを指す。
事例1:“ダイヤ”という概念を用いて、Outcomeを比較可能にする
中村氏はチームビルディングやファシリテーション、アジャイル開発のマネジメントを得意とする現場コーチ。
まず、自身がコーチとして携わった株式会社Rise UPの事例について紹介した。もともとこの企業では、Outputを主な指標として開発を評価する文化があった。だが、より「ユーザーにとっての本質的な価値」にフォーカスするために、Outcomeの指標を取り入れたという。
Rise UPでは“ダイヤ”という概念を導入して、自分たちが創出した価値を可視化することを決めた。ダイヤとは、ビジネス価値を示す単位のようなものである。なぜ、この概念が必要だったのだろうか。
各PBIのOutcomeは、「ユーザー数が増える」「検索がより便利になる」「売り上げが○%くらい伸びる」など、生み出す価値の種類が異なっている。そのため、ダイヤという相対的な概念を用いて、価値の抽象度を上げることによって、共通した価値基準に基づいて比較可能な状態にしたのだ。
「ダイヤの導入により、PBIそれぞれの費用対効果(Return On Investment:ROI)がわかるようになりました。例えば『この機能はすぐに実装が終わるけれど、あまり効果がなさそう』とか『この機能は実装が大変だけれど、ユーザーにとっての価値が大きい』と判別できるようになったのです。費用対効果を算出することで、メンバーがより納得感や自信を持って、プロダクトバックログアイテムの優先順位づけを行えます。
Outcomeにフォーカスすることで、『機能を出した結果、ユーザーの行動は変わっているのだろうか』と、リリース後の結果を計測するようになり、スプリントレビューでのコミュニケーション量も増えました」
Outcomeの指標を取り入れたことで、Rise UPでは新たな文化が生まれた。PBIのなかに「望んでいる結果・成果は何か?」「定量的にいつ、何がどうなっていたらいいか?」を記載するようになったのだ。つまり、Outcomeを明確にしたうえで、作業に取り組む習慣がチームに身についた。
「この事例から『Outcomeをチーム全員で考えて、探索していくこと』『Outcomeを精密に定義するのではなく、ある程度の解像度で理解を合わせるようにすること』の大切さを、ご理解いただければ幸いです」