はじめに
アスエネの渡瀬です。私たちは、CO2排出量の見える化・削減・報告クラウドサービス「アスゼロ」や、企業のサプライチェーンのESG経営の取り組みを可視化できるESG評価プラットフォーム「ECR」といった、BtoB SaaSを展開しています。BtoBビジネスのプロダクト推進における、日本No.1はもとより、世界にむけた取り組みをする上での、機能を磨くKPIについてお話しします。
BtoBビジネスのKPI
BtoBプロダクトは、企業単位、もしくは企業の中のグループ単位での導入が主になります。現在、アスエネ社でもそうですし、前職リクルートの業務支援ビジネスでもその単位で管理していました。そのため、成功の要素を「収益貢献となる契約数」とするのは、ビジネスの観点では間違いありません。
しかし、プロダクトマネジメントの観点では、その単位でとらえるのは間違いです。あくまで、収益は結果であることは忘れてはいけません。
SaaSをはじめとする、BtoBプロダクトでは必ず見なければならないポイントが一般化されています。まず、ユーザー継続率が重要な観点になることは周知の事実です。一度の契約や、その取引関係が数年にわたることが一般的ですし、チャーンレート(解約率)を見るのも当然です。そして、2つ目に、NPS(ネットプロモータースコア)。顧客の離脱を防ぐためにも顧客の満足度を数値化する手法として、広く活用されています。問題点を把握し、契約更新時に顧客に再び自社のプロダクトを選んでもらうため、良いプロダクトとして機能を磨いていくことになります。
では、「機能を磨く」とは、どういうことでしょうか。この記事では、KPIを通した機能の磨き方を紹介します。
「機能を磨く」こと
みなさんも経験があるのではないでしょうか? 機能の開発時に、顧客要望で「こんな機能があればいいのに」という1つの大きな声からそのまま作り進め、「本当に顧客のためになっているのか」と疑問がわくような開発案件のシチュエーションです。
この顧客の声をそのままうのみにすると、プロダクトマネージャーやUXディレクターのセンスに依存してしまい、その定義でプロダクトの価値が決まってしまいます。一昔前は、そのセンスに頼った開発での成功例もあるかもしれませんが、外部環境の変化が激しく不確実性の高い現在において、それはNGです。個人のセンスやアイデアに頼った開発では、顧客の課題にクリティカルヒットするプロダクトを生み出すことはできません。仮に一度成功しても、再現性を持って二の矢、三の矢となるプロダクトや体験を提供することはできないでしょう。
そのため、顧客の要求を起点として、ユーザーの課題を網羅的に探究し、ソリューションを磨くことが重要になります。この網羅性の観点と、指標定義によってソリューションを磨くことが、「機能を磨く」ことになります。
課題と立てるべき問い
一例として、私の前職の経験を話します。前職で、店舗の待ち行列の問題を解決する「行列管理SaaS」を提供していた際の、ある人気の飲食店で実際にあった例です。
都心で行列のできるフレンチ料理店だったのですが「待ち行列の対応に悩まされている」問題がありました。その経営室長のお話では「待ち時間でのお客さまのクレームや、長時間待ちの貧血などの体調不良をはじめ、夏場の熱中症など季節に応じたフォロー、近隣の施設へ迷惑をかけないための整理や謝罪、道路法の観点から警察署からの指摘対応など」といった悩みでした。スタッフの負荷があがることはもちろん、従来の運用方法で解決できない課題が明確にありました。
そこで、登場するのが待ち行列の問題を解決する行列管理SaaSです。しかし、大きな論点がありました。行列の管理のために「紙の受付表をデジタル化する」ことは良いが、「売上が下がらないのか?」という点です。飲食店なので「行列がある=店の回転率につながる」し、「回転率が売上に直結」し、という強い前提がありました。
つまり、「課題解消のため長すぎる行列は解消したいが、行列は一定数は残しておきたい」ということです。この要求は、「最適な行列はどれくらいか? そのための機能が磨かれているか?」という問いをプロダクトには問われているのです。「機能があります」では「顧客の表面上の行列の課題は解消できる」という二流の回答であり、「課題の解消はもとより、売上は変わらない(あるいは上げる)」ということが求められているということです。