はじめに
プロダクトマネージャー(以下、PM)は、急速に変化する市場環境や激化する競争の中で、日々新たな課題に直面しています。特に経験の浅い「駆け出しPM」にとっては、これらの課題に対処しながら自身のスキルを磨いていくことが求められます。しかし、失敗を恐れるあまり大胆な施策を避けてしまったり、逆に自信過剰で周囲の意見に耳を貸さなかったりと、さまざまな「しくじり」を経験することも少なくありません。
そんな中、駆け出しPMの成長を支援するイベント「プロダクトマネージャーLT Night 〜駆け出しPMのしくじりと学び〜」がファインディ株式会社とKINTOテクノロジーズ株式会社の共催で開催されました。本イベントでは、各社の第一線で活躍するPMたちが、自身の経験した「しくじり」とそこから得た貴重な学びを共有しました。
本記事では、イベントで共有された知見をもとに、駆け出しPMが陥りやすい罠と、そこから学ぶべきポイントをお伝えします。
LT1:ユーザー権威に惑わされない課題の探索
- 発表者:株式会社ダイニー 大倉泰平氏
- 発表スライド
概要
本セッションでは、「ユーザーの声は絶対」という思い込みが時として大きな失敗を招くことがあるという点に焦点が当てられました。飲食店向けのAll in Oneクラウドサービス「ダイニー」の開発における具体的な事例を通じて、ユーザーの声を適切に扱うための方法が共有されました。
しくじりの内容と背景
ダイニーは導入企業との距離が非常に近く、上場企業の社長からも直接フィードバックをもらえる環境にあります。ある日、導入先の上場企業の社長から以下のような機能改善の要望が届いたとのことです。
「『価格を変更してプランを開始する』の機能なんだけど、うち使わないし、スタッフが間違えて押しちゃうから非表示にしてくれない?」
この要望を受け、当初は機能の表示/非表示を切り替える新機能の開発が検討されました。上場企業のオーナーからの声であり、店舗数も大規模であることから、多くのユーザーが同様の問題を抱えているのではないかと考えられたのです。
しかし、この判断には大きな落とし穴がありました。ユーザーの声、特に影響力のある顧客からの要望をうのみにすることで、本当に必要な改善を見逃す可能性があります。また、一部のユーザーの意見だけを基に開発を進めると、他の多くのユーザーにとっては不要な、あるいは使いづらい機能を作ってしまうリスクがあります。
学びと対策
この経験から、以下の対策が講じられました。
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データ分析の徹底
- 問題の機能の利用状況を詳細に調査したところ、予想に反して、この機能は多くの店舗で実際に使用されていることが判明しました。4月の1か月だけでもダイニー導入店舗の約20%で利用されており、十分利用頻度が高い機能であることが分かりました。
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異常値の検出と原因究明
- データ分析の過程で、機能使用後に利用取消を行ったケースが一定数発見されました。これは意図しない使い方や何らかのエラーが発生している可能性を示唆しています。
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実地調査の実施
- データだけでは背景が読み取れないと判断し、実際に店舗を訪問してスタッフの操作を観察しました。操作画面を動画で撮影しながら観察を行った結果、驚くべき事実が判明しました。正しいハンディの設定がされていなかったのです。これが誤操作の根本原因でした。
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根本的な解決策の実施
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この発見を基に、以下の対策が講じられました。
- その場で正しい設定に修正
- オンボーディングフローの見直しによる設定漏れの予防
- ユーザーインターフェースの改善による、誤操作の防止
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この発見を基に、以下の対策が講じられました。
総括
この事例から、「定性確認」と「定量分析」の往復により、より深い意思決定を行えるようになることが示されました。また、動画を撮って観察することで、より実態を捉えられるという点も強調されました。
PMとして、ユーザーの声を大切にしつつも、それをうのみにせず、データと実際の利用状況を丁寧に確認することの重要性が浮き彫りになりました。また、問題の本質を理解するためには、時には現場に足を運び、自分の目で確認することも必要だという教訓が得られました。