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ProductZine Day&オンラインセミナーは、プロダクト開発にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「ProductZine(プロダクトジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々のプロダクト開発のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

デブサミ2026の初日をProductZineとコラボで開催。

Developers Summit 2026 「Dev x PM Day」

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イベントレポート

国産SaaSを牽引するトップリーダー3名が語る「これからのチーム」の正体──“仲良し”ではなく“共通のゴール”が熱狂を生む

「Nulab Conference 2025」イベントレポート

 優れたプロダクトビジョンがあっても、それを実現する「チーム」が機能していなければ成果は生まれない。しかし、リモートワークの常態化や雇用の流動化により、かつてのような「阿吽の呼吸」に頼ったチーム運営は限界を迎えている。2025年10月17日、Backlogのリリース20周年を記念して開催された「Nulab Conference 2025」の基調講演に、サイボウズ青野氏、さくらインターネット田中氏、ヌーラボ橋本氏が集結した。「チームワークマネジメント」をテーマに語られた40分間のセッションは、現代のプロダクトマネージャーが直面する組織課題へのヒントに満ちていた。本稿では、3社のトップが語り合った「自走する組織」の定義と、明日から実践できるチームビルディングの要諦を紐解く。

プロダクト開発の成否を握る「チーム」という変数

 プロダクトマネージャー(PM)にとって、最大の悩みは何だろうか。

 ロードマップ通りに進まない開発、複雑化するステークホルダー調整、解像度の上がらない顧客要望……。日々直面するこれらの課題の根底には、常に「チーム」の存在がある。

 どれほど革新的なプロダクトを企画しても、作り手であるチームが疲弊していては、ユーザーに価値を届けることはできない。「管理」しようとすれば反発を招き、「放置」すれば空中分解する。現代のプロダクトマネージャーには、機能開発だけでなく、「チームという、最も手強いプロダクト」をどうにかして前に進める(Manageする)手腕が問われているのである。

 品川インターシティホールで開催された「Nulab Conference 2025 ~ DESIGN YOUR TEAMWORK ~」。そのメインステージで行われた基調講演には、日本のSaaS業界を黎明期から牽引してきた3名のトップリーダーが登壇した。

  • 青野慶久氏(サイボウズ株式会社 代表取締役社長)
  • 田中邦裕氏(さくらインターネット株式会社 代表取締役社長)
  • 橋本正徳氏(株式会社ヌーラボ 代表取締役 CEO)

 モデレーターは、Newbee株式会社 代表取締役の蜂須賀大貴氏が務めた。

 独自のカルチャーで成長を続ける3社は、今の時代の「よいチーム」をどう定義しているのか。経営者視点と現場視点を行き来しながら語られた、濃密なセッションの内容をお届けする。

「よいチーム」の条件──それは“共通のゴール”から始まる

 セッションの冒頭、モデレーターの蜂須賀氏から投げかけられたのは、「そもそも、よいチームとは何か?」という根源的な問いであった。

モデレーターを務めたNewbee株式会社 代表取締役の蜂須賀大貴氏
モデレーターを務めたNewbee株式会社 代表取締役の蜂須賀大貴氏

 これに対し、サイボウズの青野氏は「仲が良いことがチームではない」と断言する。

 「例えば、ここに10人の人が集まっているとします。でも、ただ集まっているだけではチームではありません。しかし、『よし、みんなで野球をやろう』とか『キャンプに行こう』と目的が決まった瞬間、役割分担が生まれ、そこにはチームが誕生します。つまり、共通の目的(ゴール)があるかどうかがすべてなんです」(青野氏)

「仲が良いことがチームではない」と語るサイボウズ株式会社 代表取締役社長の青野慶久氏
「仲が良いことがチームではない」と語るサイボウズ株式会社 代表取締役社長の青野慶久氏

 これは、プロダクトマネージャーが掲げる「プロダクトビジョン」の重要性と同義である。「心理的安全性」や「風通しの良さ」といったチームの状態(How)に目を奪われがちだが、そもそも「我々は何を目指すのか」という目的(What/Why)の合意なしに、よいチームは成立し得ないということだ。

 一方、さくらインターネットの田中氏は、「個人の資質よりも、組み合わせが重要」と指摘する。

 「チームというのは、個人の能力を拡張するための装置です。ある環境では『使えない』と言われるような人でも、別の環境や役割──例えばアニメソングのクラブイベント(アニクラ)のような場所──に行けば、誰よりも輝くことがある。リーダーの仕事は、優秀な個人を集めることではなく、その人が輝く『場』と『組み合わせ』を設計することに尽きます」(田中氏)

 多くのプロダクトマネージャーは、自分自身でメンバーを選定する権限(人事権)を持っていないかもしれない。しかし、今いるメンバーのスキル不足を嘆くのではなく、「このメンバーの強みが活きるコンテキストはどこか?」を問い続け、役割をデザインすることはできるはずだ。

組織は「石垣」であり「細胞」である──停滞を打破する“新陳代謝”

 議論は、「組織の維持と成長」へと進む。

 長くチームを運営していると、どうしても「マンネリ」や「属人化」が発生する。特定のエンジニアへの依存や、チーム全体の学習意欲の停滞は、プロダクトの成長速度を鈍化させる深刻な問題だ。

 これに対し、田中氏は「新陳代謝」というキーワードを提示した。

 「人間の身体は、細胞が常に入れ替わっているからこそ維持できています。組織も同じで、中身が入れ替わらなければ死んでしまうんです。『慣れ』は効率を生みますが、同時に成長を止めます。メンバーが入れ替わること、新しい血が入ってくることを、恐れるのではなく歓迎すべきです」(田中氏)

「組織は新陳代謝しなければ死んでしまう」と指摘するさくらインターネット株式会社 代表取締役社長の田中邦裕氏
「組織は新陳代謝しなければ死んでしまう」と指摘するさくらインターネット株式会社 代表取締役社長の田中邦裕氏

 「新陳代謝」は、時に痛みを伴う。しかし、青野氏もこれに同意し、組織作りを「石垣」に例えて解説した。

 「石垣を組むとき、四角い石ばかりでは強い壁は作れません。ゴツゴツした石、変な形の石、いろんな石があるからこそ、噛み合って頑丈になる。うまくいかない時、多くの人は『石(メンバー)』が悪いと考えますが、そうではない。『石の組み合わせ方』が悪いだけなんです」(青野氏)

 今のチーム構成を「固定されたもの」として捉えていないだろうか。機能開発のイテレーションを回すように、チーム構成そのものもアジャイルに見直し続ける姿勢が必要だと、両氏は示唆する。

ヌーラボが提唱する「チームワークマネジメント」とリーダーシップの覚悟

 では、具体的にどうすれば、メンバーが主体的に動き出し、成果を出せるチームになるのか。

 ここで、ホストであるヌーラボの橋本氏が、同社が提唱する「チームワークマネジメント」の概念について解説を加えた。

ヌーラボが提唱する「チームワークマネジメント」について解説する株式会社ヌーラボ 代表取締役 CEOの橋本正徳氏
ヌーラボが提唱する「チームワークマネジメント」について解説する株式会社ヌーラボ 代表取締役 CEOの橋本正徳氏

 「ヌーラボでは、『チームワークマネジメント』を、異なる職種や部門のメンバーが共通の目的に向かって自律的に動くための概念と定義しています。そのために必要なのが、『目的の共有』『役割の明確化』『リーダーシップの発揮』『コミュニケーション設計』『心理的安全性』の5つの要素です」(橋本氏)

 橋本氏は特に、これらが機能した先にある「楽しさ」の重要性を説く。

 「『明るく楽しく元気よく』というと精神論に聞こえるかもしれませんが、これはトラブルすらも即興劇(インプロビゼーション)のように楽しんで乗り越えられる状態を指します。いわば集団的フロー状態に入ることが、最強のチームワークです」(橋本氏)

 そのための土台となる「心理的安全性」について、青野氏と田中氏からは、非常に実践的かつシビアなアドバイスが飛び出した。

1. 青野氏が提唱する「質問責任」

 「サイボウズでは『質問責任』という言葉を使っています。会議などで、分からないことや納得できないことがあるのに、その場で質問せずに後で文句を言うのは『卑怯』なこと。

 心理的安全性とは、波風を立てないことではありません。『分からない』と声を上げる責任を果たすことであり、チームを率いる者は、それを絶対に否定せずに受け止める義務があるのです」(青野氏)

2. 田中氏が実践する「肯定ファースト」

 「社長である私に対して、辛辣なコメントが飛んでくることもあります。でも、私はそれを『アドバイス』と脳内で翻訳して受け取るようにしています(笑)。

 リーダーシップに必要なのは、どんな意見もまずは『言ってくれてありがとう』と受け止める『肯定ファースト』の姿勢です。不機嫌になったり、反論したりした瞬間に、情報の流れは止まってしまいます」(田中氏)

 プロダクトマネージャーにとっても、メンバーからの異論や反論はストレスの種になりがちだ。しかし、それを「攻撃」ではなく「プロダクトを良くするための貢献」と捉え直せるかどうかが、チームの自走力を左右する。

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未来のチームは「境界」が溶けていく

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この記事の著者

斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)

株式会社翔泳社 ProductZine編集長。 1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以来担当し、2011年4月から2020年5月までCodeZine編集長を務めた。教育関係メディアの「EdTechZine(エドテック...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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