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ProductZine Day&オンラインセミナーは、プロダクト開発にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「ProductZine(プロダクトジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々のプロダクト開発のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

ProductZine Dayの第4回。オフラインとしては2回目の開催です。

ProductZine Day 2025

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AI時代の「顧客理解」:プロダクトマネージャーが持つべき視点と実践

データサイエンティスト、プロダクトマネージャーともに必要な「課題理解」スキル

AI時代の「顧客理解」:プロダクトマネージャーが持つべき視点と実践 第2回

 AIの活用が事業の成否を分ける時代。「データサイエンティストに分析を依頼したが、期待した成果が出なかった」――そんな経験はないだろうか。その原因は、両者の連携不足や、"依頼待ち"の姿勢にあるのかもしれない。AIプロダクト開発の成功には、プロダクトマネージャーとデータサイエンティストがそれぞれの専門性を最大限に発揮できる協働体制が不可欠だ。コミューン株式会社CPOの久松さんによる連載第2回では、両者を『指揮者』と『職人』になぞらえ、その理想的な関係性を解説。すべての起点となる「課題発見」のスキルをいかに共有し、具体的な開発プロセスでどう連携していくのか。同社の実践事例を交え、AI時代のプロダクト開発を成功に導くためのヒントを提示する。(編集部)

はじめに

 こんにちは。コミューン株式会社 執行役員CPOの久松です。

 前回の記事では、AI活用プロジェクトの成功確率を高めるアプローチとして、まず「社内の業務改善をAI活用の実験場にすること」の重要性についてお話ししました。スコープを限定し、高速でPDCAを回せる社内での実践は、不確実性の高いAI活用プロジェクトの「成功の型」を見つけ出す上で極めて有効です。

 私たちコミューンでは、このAI活用プロジェクトを、プロダクトマネージャーだけでなくデータサイエンティストにもリードしてもらっています。なぜなら、これからの時代にデータサイエンティストが継続的に価値を発揮し続けるためには、自ら顧客の課題を発見し、問いを立てる能力が不可欠だと考えているからです。

 本記事では、プロダクトマネージャーとデータサイエンティストというAIプロダクト開発に欠かせない両輪が、いかにして「課題理解」という共通のスキルを磨き、協働していくべきか。私たちの実践を交えながらお話ししたいと思います。

「待ちの姿勢」では価値が出せない

 一般的に、データサイエンスチームはセンター・オブ・エクセレンス(CoE:優秀で専門性の高い人材の集団)として組織され、各事業部からの依頼を受けて分析や開発を行うケースが多く見られます。しかし、この状況は「待ちの姿勢」を生みやすく、そこには大きなリスクが潜んでいると私は考えています。

 他部署から来る依頼の多くは、具体的な「How(どうやってやるか)」になりがちです。例えば「このデータを分析してほしい」「こういうモデルを作ってほしい」といった形の依頼です。しかし、その背景にある「Why(なぜやるのか)」「What(何を解決したいのか)」という本質的な課題を理解しないまま作業を進めても、本当に価値のあるアウトプットは生まれません。

 そのため、「依頼された通りに分析モデルを作ったものの、少しずれたものになってしまい、結局使われなかった」というケースも多い。しかも、一度失敗すると「あのチームに頼んでも時間がかかるだけで成果が出ない」というレッテルを貼られ、その後の依頼が減ってしまうことにもなりかねません。

 こうした事態は、データサイエンティストのモチベーションをそぐだけでなく、会社全体としてAI活用の機運がしぼんでしまう最悪の結果を招きかねません。特に、AIの進化が企業の競争優位性を左右する現代において、その損失は計り知れません。

 この負のサイクルを断ち切るために必要なのが、データサイエンティスト自身の「ドメイン知識」と「課題発見能力」です。

 担当する事業や業務について深く理解し、現場の担当者と対等に話せる知識を身につける。そして、データと現場の両方を見ながら、「ここにAIを活用すれば、もっと業務が良くなるのではないか」という仮説を自ら立て、提案していく。この能動的な動きこそが、再現性のある成功を生み出すのです。

 第1回の記事でご紹介したような社内業務の改善プロジェクトは、データサイエンティストがドメイン知識を深め、課題発見の筋力を鍛えるための、またとないトレーニングの場でもあるのです。

職人と指揮者

 ここまでの話を聞いて、データサイエンティストがプロダクトマネージャーと似たものに思えてきた方もいるでしょう。しかし、実際は明確な役割分担があります。両方の職務を経験した立場から、私なりの考えをお伝えします。

 まず、両者に共通するのは「課題を見つけ、その本質を追究する」という点です。ユーザーや事業が抱える課題の表面をなぞるのではなく、「本当の課題は何か?」を深く、しつこく掘り下げていく。この探究心こそが、すべてのスタートラインになります。一方で、その後のアプローチ、つまりアウトプットの仕方が大きく異なります。

 データサイエンティストは、言うなれば「職人」です。 課題に対して、データを取得・分析し、示唆を導き出す。その一連のプロセスを、自身の専門スキルを駆使して完結させます。最終的なアウトプットは、分析レポートや予測モデルであり、その質の高さが価値となります。

 それに対し、プロダクトマネージャーは「指揮者」と言えるでしょう。 課題に対して、「プロダクトでどう解決するか」という方針を定め、優先順位を決め、仕様を策定します。しかし、プロダクトマネージャーは自分でコードを書いたり、デザインを作ったりするわけではありません。エンジニアやデザイナーといったチームメンバーを巻き込み、同じゴールに向かって導き、チームとして価値を最大化させることが役割です。

 入り口は同じ「課題発見」でも、その後のプロセスが職人として「個の力」を最大限発揮するのか、指揮者として「チームの力」を束ねるのか。ここに両者の本質的な違いがあると考えています。

次のページ
両者の協働プロセス

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この記事の著者

久松 佑輝(コミューン株式会社)(ヒサマツ ユウキ)

2017年Speeeに新卒で入社し、データサイエンティストとして広告配信アルゴリズムの開発に携わる。その後Datachainに出向し、プロダクトマネージャーとしてナショナルクライアントとブロックチェーンを活用したPoCを複数成功に導く。2021年5月にコミューン入社。2024年8月執行役員CPOに就...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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