両者の協働プロセス

このように、プロダクトマネージャーとデータサイエンティストはそれぞれ異なる専門性を持つからこそ、協働することで大きな成果を生み出すことができます。特に、不確実性の高いAIプロダクト開発では、両者の連携が成功の生命線となるでしょう。では、具体的にはお互いにどのような補完関係が成り立つのでしょうか?
まず、プロダクトマネージャーだけでは技術的な実現性の解像度が低い、という点があります。 「この課題を解決するために、どんなデータが必要か?」 「どの程度の精度があれば、ビジネスインパクトを出せるのか?」 「精度が担保されない技術的な制約はないか?」などの問いに、AIや機械学習の知見がないプロダクトマネージャーが答えるのは困難です。特に、多様な顧客を抱えるホリゾンタルSaaSなどでは、顧客の状況によってAIモデルのパフォーマンスが大きく変わるため、データサイエンティストの専門的な視点が欠かせません。
一方で、データサイエンティストだけではプロダクトの制約条件の理解が難しい。 「プロダクトの仕様上、そのデータはリアルタイムでは取得できない」「このモデルを実装するにはユーザーに新たな情報入力を求める必要があり、UXを損なう可能性がある」など、こうしたプロダクト側の制約や、ビジネス上の要求をデータサイエンティストだけで完全に把握するのもまた困難です。プロダクト全体の設計思想や、ユーザー体験への深い理解を持つプロダクトマネージャーとの連携が不可欠となるのです。
では、具体的にどのように協働を進めるのか。私たちがよく取るプロセスの一例をご紹介します。
Step 1:課題の明確化
まず、プロダクトマネージャーが主体となり、特定の業務フローにおける現状を整理し、課題を洗い出します。現場担当者へのヒアリングなどを行い、業務の解像度を高めていくプロセスですが、この場にはデータサイエンティストにも同席してもらいます。これにより、チーム全員が同じレベルで課題を理解することができます。
Step 2:AI活用のインパクトの検討
明確になった課題に対し、「どこにAIを活用できるか」「それによって、どれくらいのインパクト(業務効率化や精度向上)が見込めるか」をプロダクトマネージャーとデータサイエンティストが一緒に議論します。ここで重要なのは、ROI(投資対効果)の視点です。「技術的に可能か」だけでなく、「人を置き換えるほどのコストメリットがあるか」「人がやるよりも高い精度を出せるか」をシビアに判断します。
Step 3:プロトタイピングと検証
ROIが見込めそうなアイデアについては、データサイエンティストが小さなプロトタイプを迅速に作成し、その有効性を検証します。この際、プロダクトマネージャーは「そもそもこのデータはプロダクトで利用可能なのか」「ビジネス上の制約はないか」といったドメイン知識やプロダクト知識を提供し、データサイエンティストをサポートします。
この1〜3のステップを通じて、お互いの専門知識が補完され、より精度の高い意思決定が可能になります。プロダクトマネージャーはデータサイエンスの勘所を学び、データサイエンティストはプロダクト開発の視点を学ぶ。こうした好循環が、チーム全体のレベルを引き上げるのです。最近では「MLPdM(Machine Learning Product Manager)」のような、新しい職種へのキャリアパスも生まれており、両者の視点を併せ持つことの重要性が高まっているのを感じます。
おわりに
ここまで、プロダクトマネージャーとデータサイエンティストの役割と協働についてお話ししてきましたが、両者に共通して重要なスキルは、やはり「課題理解」の能力です。最初の課題設定を間違えてしまえば、その後にどれだけ高度な分析を行っても、どれだけ優れたプロダクトを開発しても、その努力はビジネス上の価値に結びつきません。
AIが進化し、あらゆる情報が簡単に手に入る時代だからこそ、自ら現場に足を運び、ユーザーの生の声を聞き、その置かれている状況を深く理解しようとする泥臭い取り組みが、これまで以上に重要になっています。
この普遍的なスキルを磨き続けることが、AI時代を生き抜くプロダクトマネージャーとデータサイエンティストに求められる最も大切な姿勢ではないでしょうか(第3回に続く)。